第17話 勘違いされた
出来立てほかほかのバタードフィッシュを口に入れた瞬間、香ばしさが鼻を抜け、舌は極上の旨味に溢れた。
「うまー、めっちゃうまー」
一緒に揚げたポテトもほくほくで塩味が絶妙だった。
こんな旨い料理を考えた人、天才すぎる。
そして程よく焼けてきたニジマスの塩焼きにもかぶり付く。
脂身と肉汁が滴り落ちる。
口一杯に焼魚の味、ここに醤油と大根おろしがあれば無敵だったが、なくても旨い。
「…………料理人極めようかな」
モンスターや獣人との戦いよりも何百倍も楽しいかもしれない。
――――いや、絶対楽しいだろう。
このインフレステータスだと強すぎて戦いに何の面白味も見出だせない。
瞬殺ばかりで虚しいだけだ。
ステータスウィンドウを死んだ魚のような目で見詰めていると、マップ画面にNPC反応が点滅する。
「あ、サブクラス狩猟士のまんまだった」
更にマップを拡大して確認すると、NPCの隊列がこちらに向かっている。
「まさか、プロディガルシア地下壕の人達が本当にベヒンモスンの討伐に来たのか?」
さすがにペットとNPCが殺し合うのは寝覚めが悪い。
すぐにベヒンモスンとグリグリには退避してもらい、急いで装備を整える。
別に一戦交える為ではない。
こういうのは体裁が必要なのだ。
が、しかし――――
「ん? 方向が違う??」
彼等が向かう方向を推測すると、
「リーデン岬のほう?」
何だか嫌な予感がする。
サブクラスを回復魔法師に変更、視覚遮断と聴覚遮断の魔法を自分にかけた。
言わずもがなだろうが、この魔法はMGS魔法と呼ばれ、モンスターごとに設定されている知覚手段を阻害し、低レベルでもダンジョンや迷宮などの深部まで探索を可能とする魔法だ。
当然、プレイヤーの中には各モンスターの行動パターンを把握して、MGS魔法なしで探索し回るスキルを持つ者もいるが(無論、私も)、今回に限っては慎重に慎重を重ねる必要がある。
なぜなら、広域スキャンで捉えたNPCの中に『死狂禁断縛鎖アマネシア』で、かなり重要な人物がいたからだ。
プロディガルシア地下壕の自警団リーダー『プリシア』という名の少女だ。
ぶっちゃけ見た目は少女でも、中身は神の化身のような存在で、老化の止まった妙齢の女性だったはず。
一体全体なんだって自警団を率いてリーデン岬に行くのか。
そもそも『エンファン』でこんなイベントはない。
あったとしてもプレイヤーと一緒に行動し、最後には男神アマネシアと激闘の末、これを見事打ち倒して大団円を送るはずだ。
「まさか…………、リーデン岬にバハムートが出るってこと?」
バハムートは男神アマネシアの復活を阻止する為に人類を滅ぼそうとするのだが、なぜ人類かっていうと、アマネシアは人類悪みたいなものを全部吸収すると現世に降臨して世界を滅ぼすとされ、その人類悪そのものである人類を滅ぼせばアマネシア復活できないよね、っていう乱暴な理論で人類を滅ぼそうとする、みたいな。
確かそんな感じだったはずだが、まあ、とにかく現在の驚異はバハムートであって、本当に出現したとしたら、ちゃんとプレイしている
え? 私ですか?
説得もなにも、参戦したらインフレステータスで瞬殺なのでゲームバランスを考えて介入しない方向でいきますけど?
とはいえMGS魔法をかけた手前、彼女達を見送るだけ、
なわけがない。
こっそり後をつけるに決まっている。
リーデン岬に向かっているNPC集団の真後ろに取り付き(結構大胆)、前方の自警団リーダーを観察する。
間違いない。
『
男神アマネシアはこの『世界の終焉を告げる者』を人柱にして降臨するので、すべての人類悪を内包した少女『プリシア』は、まさに危険極まり存在ともいっていい。
つまり――――
仮にリーデン岬にバハムートがいたら、
世界を巻き込んだ壮絶なバトルが始まるのではないか…………?
「それはまずい」
せっかくのんびりまったりスローライフ計画が頓挫する。
オタク文化普及計画も水の泡だ。
――――自警団よりも早くリーデン岬に行かなければ!
2000メートルの距離を116秒間で走りきるスキル『
突然の突風を巻き起こしてしまったので、自警団に動揺が広がったようだが、そんなことに気を払っている猶予はない。
一陣の風となって自警団を追い越してリーデン岬へ突入する。
すると、どうだろう。
「翼ある我が一族をことごとく滅ぼす力、もはや人の子ではないな。世界を滅するその力、そなたこそが『
マジでバハムートがいた。
しかも、私を『世界の終焉を告げる者』として完全に敵意を抱いてしまっている。
「先んじた我が一族を滅したようだが、我が力はその程度ではない! その無念、ここで晴らしておこう!!」
そうだよね、一族の無念だよね。
龍族の
結局、殺し合う羽目になるんだね。
『エンファン』史上最強の龍とね。
はは、ワロタ。
この先、私は本当にスローライフが送れるのだろうか。
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