第16話 そろきゃん!
ルソレイア王国がある大陸『スフェール大陸』西端にある半島には、かつて『プロディガルシア侯国』と呼ばれる国があった。
ルソレイア王室とも繋がりがあった由緒正しい国だったが、20年前の凡結晶大戦にて獣人大同盟軍の大軍に攻められ滅んだ侯国だった。
その様子は『エンファン』のオープニングムービーで確認できる。
正確には、というかネタバレ的な意味では、その獣人大同盟軍に対抗する為に使おうとした『聖剣』の暴走で崩壊したのだが、侯国の民は『プロディガルシア地下壕』へと退避し、今も細々とした生活を送っている。
なのでほとんどNPCがいないので、魚釣りを終えた段階で騎乗ペットのグリグリとベヒンモスンを呼び出し、イアデオ海岸名物の『ピレネーの大瀑布』で水浴びをさせたていた。
「プロディガルシア城壁を突破したのはベヒモス族なんだよな」
もし今のこの様子をプレイヤーに見られたらぞっとするが、追加ディスク第2弾『死狂禁断縛鎖アマネシア』の実装はまだ先なので、少なくともプレイヤーは絶体に存在しないエリアだ。
――――安心してくつろぐことができる。
『ファブール河』の側で焚き火をする為に石を積み、薪になりそうな木材をアイテムから取り出しながらペット達を眺める。
無邪気に水浴びしているが、凡結晶大戦で生き残った人々がベヒンモスンを見たら卒倒するに違いないだろう。
いや、多分、普通の人が見ても卒倒するか――――
麻糸を
その上から太い薪を八の字のように立てて完成だ。
後は火種があれば楽に火を起こせるのだが、異世界に便利な100円ライターはない。
「……魔法使うのもな」
いくら火種がないからといって魔法や炎結晶を使うのは大仰だろう。
代用品になりそうなものを考える。
え?
火打ち石?
アイテムとして確かにあるが、なんか絵面が嫌なのでパス。
「あ、そっか」
ちょっと閃いてしまったので、盾を焚き火手前の地面に平置きする。
聖剣を片手に切っ先を地面に向けて、盾の正面すれすれにスィングすると、
激しい火花が舞った!
解した麻糸は一気に燃え上がり、小枝は瞬く間に燃え、ばっちりと火が付いたのだ。
「ありがとう聖剣、と聖盾」
ここにルソレイア王国の神官がいたら神聖な遺物になんて罰当たりなと唾を飛ばしながら発狂しそうなものだが、まあ調理する為の火起こしに役立ったんだから、モンスターを殺戮するより百倍は健全だろう(っていうかこの聖剣がルソレイア王国の聖剣かは知らないが)。
次は魚の下拵えだ。
アイテムから調理用の装備を取り出して準備をする。
『エンファンⅡ』の調理も基本は結晶合成なのだが、製作過程がよりリアルに再現されていて、フライパンや鍋などを実際に火にくべて料理する描写なのだ。
なので、調理器具は『エンファンⅡ』のを使い、ちゃん料理をするつもりだった。
そのほうがキャンプっぽい。
雰囲気はまさにスローライフ。
竈を取り出し焚き火の横に置く。
そこにも薪を放り込んで、焚き火から火種をもらい火を起こす。
鍋を用意しオリーブオイルで満たしてしばらく放置。
フライパンはお皿用に置いておく。
今度は調理台と『リントヴルムナイフ』(最初に倒した神龍のドロップ品)を取り出してタラとニジマスを捌く。
ニジマスのほうは小さい頃のキャンプで見た父親のやり方を思い出しながら、お腹に刃先を入れてはらわたを取り出す。
気持ち悪いと嫌悪してたが、やってみるとたいしたことなかった。
タラも同じようにはらわたを取り出し(ちなみに内臓とかは虫が沸くから父親は袋に入れてちゃんと別に処分していた)、グリグリを呼んでみたらしっかり食べてくれた。
「…………タラの切り身って、三枚おろしのことか」
ちなみに自分でも割と料理するのだが、魚は切り身にされているのを買うばかりで捌いたことはない。
小さい頃の父親の魚の捌き方を思い出しながら実践してみる。
まずはリントヴルムナイフの刃を当ててうろこを取る。
お腹からナイフを入れ、刃を中骨に当てながら切り取り、中骨が付いてるほうも同様に切り落とす。
後は背びれとか身に残った中骨を丁寧に取り出してから適当な厚みに切って完成。
「三枚おろしって疲れるな……、慣れの問題か?」
ニジマスは簡単だ。
木材を適当な串に加工し、それを口の中から刺して適当に塩を振って完成。
焚き火の側に刺せば、後は焼き上がるのを待てばいいだけだ。
「トラウトサーモンの塩焼きのレシピレベルが低いのが分かるな」
ちなみに調理レベル5くらいで作れるものだった。
だが、タラを使った料理のほうは少し手間がかかる。
アイテムからポテトを取り出して適当なサイズに切り塩をふる。
先程の鍋に満たしたオリーブオイルが程良い温度になったのを確認してから、アイテムから小麦粉を取り出し、タラの切り身にまぶして、ポテトと一緒に鍋に放り込む。
後は揚がるのを待つだけ。
「…………なんて食欲をそそる香りだ」
邪魔くさい鎧を外し、河辺で手と顔を洗って準備万端。
しばらくすればタラのほうが先に完成する。
携帯用の小さなフライパンをお皿の変わりにすれば、
「伝統料理、魚とポテトをさくっと揚げたバタードフィッシュの出来上がりだ」
控えめに言って、
クッソうまそうだ!
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