第15話 そうだ、釣りをしよう
「我こそは
その瞬間、世界は暗黒に閉ざされ、足下には
仄暗い闇に光が灯されたかと安堵するのは早計だ。
刹那、
骨をも溶かす紅蓮の流星群と化した矢が連続で着弾、無間地獄ごと吹き飛ばして、
「……終わった」
そう感慨深く呟くも、さして苦労はしていない。
ある種の消化作業であり、強いて言うならクリア後にプレイ可能なエンドコンテンツをやっている感覚だった。
そして何かを成し遂げた後の決まった生理現象、つまり下腹部から空腹の合図が鳴る。
「……異世界転生してチート状態でも腹は減るもんなんだな」
辺りを見回せば食えそうにないモンスターがちょろちょろと徘徊している。
いや、食えなくもないがあんまりおいしそうではないのだ。四足獣のヒッポグリフとか絶対においしくない。
そもそもここは『エンファン』の追加ディスク第二弾『死狂禁断縛鎖アマネシア』で実装されたエリアで、本来ならレベル50制限の場所。
カンストしたプレイヤーでも力技を不可能とするエリアなのだが、当然、何の影響もなくレベルは700のままだ。
しかもここ『リーデン岬』では初めて『エンファン』を代表する召喚獣バハムートと対面する場所、
なのだが影も形もない。
一応、龍族の王みたいな立ち位置で古の盟約で人間達を滅ぼすだのなんだの言っていたのに。
「スキルで変身できる『絶真龍バハムート』とは別の存在なのか」
彼の真龍は一族を率いてリーデン岬に来訪し、その影響でここは地形が隆起し、岩盤が幾つも空中に浮かぶファンタジーな風景となった地だというのに。
「まあ、その龍族もすべて一掃してしまったわけだが」
存在しなければ倒すことも出来ないし、そもそもバハムートとはゲームでも戦えない存在だった。
とりあえず腹の虫を収めたい。
リーデン岬エリアを出れば、辺りは海岸線が連なっている『イアデオ海岸』だ。
騎乗するグリグリを呼びつつ食べ物をどうするかだが…………。
「……釣りか」
参った。
あらゆるクラスや職人をカンストさせてたが、唯一『釣士』だけはそこまでやっていなかった。
魚を釣って食料時給する自信はない!
「なあグリグリ、魚取れる?」
冗談で言ったのだが、そこはご主人様が困っていると理解したのだろう。
浅い岩礁に飛んで行くと空中より一気に岩場に取り付き前肢を一閃。
綺麗な弧を描いて足下に落下したのは、
「魚じゃん! グリグリすげえ!」
拾い上げて観察。
これは、多分、海水魚のタラだろう。
あまり釣士をやっていないと言ったが、あくまで他の職人に比べたらの話で、のんびりまったり出来る釣士のレベルはそこそこ高い。
「グリグリは偉い。しかし……」
負けず嫌い精神が溢れ出る。
アイテムの中からカエデの木材と切り落とした枝、インゴットに加工された銅を取り出して、結晶合成を開始する。
成功エフェクトと同時に手元に出現したのは初心者に優しいフィッシングロットだ。
次に必要なのは釣り餌だが海水魚用の『疑似餌』のレシピが思い出せないし、活き餌の『魚』や『撒き餌』もない。
所詮はゲーム脳やアニメ脳で知った魚釣り知識では浅はかさが際立つ。
「エンファンていぼう部は諦めよう」
淡水魚なら餌のレシピは覚えている。
すぐ近場に河があったはず。
グリグリを労ってからお別れしイアデオ海岸から徒歩で河へと向かう。
そして辿り着いた先に、陽光できらきらと輝く河があった。
息を大きく吸い込み、マイナスイオンを肺に満たせば、身体中に清涼感が行き渡る。
「よし、やるか」
これなら絶対にいる。
気合いを入れ河辺の石をどけてみると、でっぷり太ったザリガニを発見。
「自分でもできそうなんだけどな」
まあ、結晶合成のほうが楽なので、アイテムからライ麦粉を取り出し、採取したザリガニと合成開始。
さくっと出来上がったのはザリガニボールという餌である。
こういう餌を使えば目当ての魚を狙い打ちに出来るのが『エンファン』のいいところだ。
先程作ったフィッシングロッドの針ににザリガニボールをくっつくて餌を垂らす。
あとは、獲物がかかるまで待つ。
河のせせらぎが心地よく、柔らかな風が頬を撫でる。
ああ、
これがスローライフだよ。
なんてのどかなんだ。
もうレアドロップ品を求めてモンスターと殺しあったり、そのモンスターをプレイヤーと奪い合わなくていいんだ。
最高じゃないか、スローライフ。
と物思いに耽っていたら、フィッシングロッドに反応あり。
釣士のレベルを考えれば簡単に釣れる獲物で、難なく釣り上げた。
こいつを使ったレシピの画像を思い出し、眼前の銀色の魚と照らし合わせれば、間違いない。
『ニジマス』をゲットした!
次にやるべきは、
「なんとかキッチン開始だ」
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