第14話 それは指名手配といっていい
ルソレイア王国。
特徴的な長耳と眉目秀麗な容姿を持った森の民、エルフィン族は王国内に王立騎士団と神殿騎士団を有しており、北方より侵攻する獣人族と長年争い続けている騎士国家である。
王立騎士団白兎騎士隊定時報告書より。
『龍神王ジャンペールの墓』最奥にて『
剣を抜くやいなや煌々とした光と魔力が集まり、瞬く間に黒闇龍を葬ったのは驚愕の一言に尽きる。
あれこそが建国の祖である龍神王ジャンペールが使用したとされる『聖剣』に違いないと確信する旨を白兎騎士隊総意をもって報告する。
――――同日
ルソレイア王国王立騎士団所属、灰狼騎士隊遠征報告書より。
『ティンバー氷河』中央付近にて『
……これは余りにも常識を覆すような出来事だが、その眩い一閃が、蒼氷龍を瞬時に消し飛ばしたようだった。
建国の祖、龍神王ジャンペールが用いた『聖剣』と同様の力を持った武器に違いないと騎士隊一同、確信に至ったと報告します。
一連の出来事から、事態を重く見たルソレイア王国宰相は、黒闇龍を葬った事実を考えるに、聖剣とは断定できないが、それに近しい力を持った剣を所持する白銀の女騎士を第一級最重要人物に指定して、秘密裏に捜索を指示した。
「本人と断定できたとしても、接触する際は決して刺激せず穏便に、王都に連れて来るよう王立騎士団及び、神殿騎士団に厳命する」
宰相はそう締め括ったが、両騎士団も管轄内の仕事で手一杯なのが現状だ。
少しでも捜索範囲を広げる為に、ここは冒険者にもクエストの発注依頼をかけるべきだろう。
その日の内にルソレイア王国の冒険者ギルドには、尋ね人という体で女騎士の情報を求む依頼書が発行された。
ヴィクトリアス連邦。
ポルコル族が大半を占める部族連邦制国家で、その見た目は小柄で(三頭身)愛くるしい反面、生まれ持った魔法適正を軍事転用した魔法国家でもある。
友好的な関係を持った猫目族のメメルも傭兵団を構え、連邦軍に編入されていた。
ヴィクトリアス連邦軍所属、メメル傭兵団猛虎団員目撃証言。
険しい地形は直射日光を遮るものはなく、常に渇きとの戦いを強要する過酷な環境の『サールスティ地溝』で、遠目からもその圧倒的な存在感をもつ『
ただ、いつもと違ったのは、その暴力的までの強さを誇る龍族が、晴れ渡る上空から突如として放たれた黒い稲妻に消し飛んだのさ。
あれには尻尾と耳の毛が逆立ったよ。
だって大自然の現象と思いきや、空を飛ぶ四足獣に跨がった銀色の女騎士がやったようだからね。
こんなことは元老院首席で偉大な大魔法使いのシャロトトさえびっくりして腰を抜かすさね。
――――同日
ヴィクトリアス連邦軍所属、乙女戦闘魔法師団長マガロ・モゴロの邂逅。
たまたま女神巡礼の供として古き友人と『聖地ザ・サ』に訪れた時だ。
鬱蒼とした樹林の奥地に鎮座する『世界樹ユグドラシル』の根本には『怨龍のねぐら』とされる、龍族が翼を休める場所があるのは承知していた。
滅多に降りてこないので関心はなかったが、珍しく二対の龍族がおったことから、つい好奇心に負けて見に行ったのだ。
木の根から顔だけ出して様子を見れば、そこには『
だが、その巨体から感じる底知れぬ力に戦慄してな。
気付かれぬ内に退散しようとした時だ。
強大な魔力を伴った白銀の女騎士が颯爽と現れた。
同じ魔法師だから分かる。
騎士だというのに、そこには純粋な剣の力ではなく、魔法で怨龍達と対峙しようといていた。
異国の詠唱術は、その膨大な魔力を紡ぎ出し、灼熱の閃光で二匹もろとも木っ端微塵に吹き飛ばしおった。
その余波は世界樹の根本まで吹き飛ばすものだから、陰鬱な森には燦々と陽光が照らされたもんだ。
しかし……、あれほどの魔力、我が国の一個戦闘魔法団を上回るほどなのは、言わずもがなだ。
関連するそれらの目撃証言と、実際に龍族反応が消滅していた事実に因果関係ありとみたヴィクトリアス連邦は、領内で国家と同規模の魔力を持った一個人の存在を重く見た。
元老院は直ちに緊急議会を召集、件の女騎士の情報収集及び、平和的な交渉の道筋を模索する方向に入り、同時に冒険者ギルドに捜索依頼の発注をかけることになった。
もちろんシ=ユノ大公国も例外ではなく、巨獣ケーニッヒベヒモスを屠った女騎士の行方を追っている。
親衛隊所属のセシリアの証言と、商工会議所で飛行大艇のパスを入手したとされる女騎士の特徴は一致しており、同一人物と断定された後は各国と同じく冒険者ギルドに捜索依頼を発注していた。
以上のことから、転生者のクレイア・クレイモアは本人の知らないところで、大陸中の国々から注目される存在になっていることを、この時点では知る由もなく、
「やばい、お腹へった……」
と、呑気にお腹を空かしていた。
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