第12話 オタク文化普及協会ギルド




 大自然におけるスプラッターの末、無事にストロッターブーツ(移動速度+15%付与)を入手した。

 通常の移動速度が向上するだけの装備なので履きはしない。

 急ぐ必要があるならペットを呼び出して乗ればいいし、なんだったら『エンファン』は転移魔法も豊富なのでそれを使えばいい。

 なかなか手に入れられないのでコレクションとして持っていたいだけというのが本心だった。


「コレクション収集はいい考えかも」


 いずれマイハウスを建てた時、秘蔵品として陳列しておいて愛でるのもいい。

 そういえば現世(?)のオタグッズとか持ってこれないだろうか。

 多分、異世界転生といか転移というか、よく分からない現象でここにいるのだが、特に元の世界に戻りたいという欲求はなく、ただただ収集していたオタグッズだけは持って来たかったくらいしかない。


「そうか…………、ここにはマンガもアニメもゲームもないのか」


 プレイヤーとは会いたくない=引き籠もるしかない=それらが必要という見事な図式が出来上がるのだが、前記の通り娯楽が少ないのが難点だった。


「…………ないのなら、作ればいい」


 そうだ。

 ないのだった作る。

 人はそうやって創造してきたのだ。


 ――――オタク文化普及協会ギルドを設立しよう!


 まずはそのになるべきアイドルをつくらねばなるまい。

 アイのマス的なやつやラブのライブ的なやつだ。

 とはいえ最初は小規模の活動から初めて信者を増やすしかないだろう。

 そもそもこの世界でそういう類が受け入れられるかどうかだが、この際、それはどうでもいい。


「私が熱狂して愛でられればいいんだ!!」


 拳を握り締めて彼方の空へと絶叫する。

 それを主人の遠吠えと勘違いしたのか、ペットのベヒンモスンも合わせてくる。

 いやいや、これが夢を誓い合った少女達の決意表明なら胸が熱くなるのに、デカイ女と口周りを血だらけにした巨獣がやっても絵面がやばいだけだ。

 

 まあ、とりあえずオタク文化普及を目指し、世界に根付いたらハウスに籠もってスローライフを送るという壮大な計画が出来たわけだし、そろそろ狩りに出掛けよう。


 満腹のベヒンモスンには帰ってもらい(光エフェクトに包まれて消える)、今度はグリフォンを呼び出した。

 ファンタジーでよくある姿の通りなので想像も容易いだろう。

 ベヒンモスンの時と同じくなついてくるので適度にあやしながら名前をグリグリと命名し、早速目的地へと飛ぶ。

 

「じゃ、行こうかグリグリ。ルソレイア王国へ」 


『エンファン』の移動は基本、徒歩やバード騎乗で、他は転移装置へ転移できる魔法に特定の航路しか付けない飛行大艇のみ。

 なので飛行する乗り物で行こうとする時点でチート行為なのだが、


 ――――どうせ今のところ他のプレイヤーはいないのだ。

 

 まだいないとも限らないが、この辺りで乗るくらいな平気だろうし、ここは時間短縮の為、大いに活用しておくべきだ。

 目指していたベイストック共和国と正反対だが、行きたいのはHNMが生息ダンジョン『龍神王ジャンペールの墓』だ。

 そこは王都ルソレイアを出ればすぐに広がる『東ランフォレスト』にある王族の墓で、ダンジョン入口はレベル10くらいのモンスターが生息しているので、初心者プレイヤーがたまにソロ活動しているくらい。

 しかし、その奥はレベル60くらいのモンスターがうようよしている。

 一気にレベルが上がるので、レベルキャップ付近のプレイヤーしか行けない場所になるが、そこに目当てのハイノマドモンスターHNMがいる。


黒闇龍こくおんりゅうヴァリトラ』。


 生息エリアで約一週間の間隔(三日から八日の間)にポップする超凶悪モンスターで、強さはもとより冥府から眷属を二分おきに召喚、またその周辺には生命感知の雑魚モンスター(便宜上雑魚と呼ぶがレベルは60付近)が、HPが減っていると襲ってくるので戦闘場所上、非常に厄介な相手だった。


 あくまで、レベルキャップ時の話だが。


 その後はレベル上限開放に伴い、割と容易に撃破できる。


「そんな昔話はいいとして」


 やはり空の移動は格段に楽だった。

 障害物なしの直線距離でこの速度、あっという間に東ランフォレストの龍神王ジャンペールの墓上空へと辿り着いた。

 ぱっと見ではプレイヤーらしき冒険者の姿は見えない。

 サービス開始初期だったら、この辺りは新規プレイヤーで溢れているはず。

 なのに閑古鳥ということは、やはりまだプレイヤーがいないということだ。


 善(?)は急げ。


 グリグリを龍神王ジャンペールの墓手前まで降ろすし、名残惜しそうな瞳で見詰めるてくるのを断腸の思いで振り切って還してやる。

 

 ――――ハウスが出来たら存分に可愛がってあげるからな。


 そしてダンジョンに入る前にもう一度、周辺を注意深く見渡す。

 視認できる限りでは、ダンジョン手前にキャンプを張っている獣人族のゴブリン数体しかいない。

 

 問題なし。


 龍神王ジャンペールの墓へと進入開始。

 入口付近にモンスターが配置されているが、レベル差がある格上だとモンスターは襲ってこない。

 アクティブモンスターでも例外ではない。

 当然、インフレステータス状態なので『エンファン』におけるどんなモンスターも、例えボスでも(ケーニッヒベヒモスの場合は先にNPCをターゲットにしていたから)、自らは襲ってこない仕様となっている。

 

 …………はずだった。


黒闇龍こくおんりゅうヴァリトラ』

 レベル80

 HP 51500

 内部クラス 闇騎士 

 各種ステータスはプレイヤーパラメーター準拠、平均90~100の値であろう。


 相対的にクソ雑魚のはずなのに、


 普通に襲ってきた。

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