第10話 屋外用のトイレつくったった




 異世界で優しい感触のトイレットパーパーを手に入れたがまだまだ足りない。


トイレ便器そのものがなければ安心できない」


 続いて合成レシピを思い出してみる。

 素材そのものは陶器製だからセラミックだ。

 これは珪素と粘土で出来ているので、直接的なレシピは存在しないが、似たようなものがある。

 便座はプラスチック、石油製品なのでお手上げだが、似たようなもので樹脂がある。

 つまり樹液があれば問題ないはず。

 もちろん『エンファンⅡ』であらゆる素材を収集していたので素材は揃ってる。

 

 早速、合成開始だ。

 

 収納から珪素と粘土と樹液を取り出し、水と風と火の結晶にイメージを投影させる。

 合成エフェクトが輝き、数秒してかた弾け飛ぶ。


『トイレ一式HQを得た』


 そのシステムログと一緒に、真っ白で清潔に輝くトイレが誕生した。


「本当にできた!?」


 しかも、水洗トイレタンクと洗面器付というおまけつき!

 さすがハイクオリティ品だ。

 ちなみにNQだと便器だけのようだが。


「よし、いける」


 まだ完成ではない。

 そもそもこれではトイレの体を成していなのだ。

 

 トイレと言えば個室だろう!


 というわけでここから必要とされる全素材を取り出し、合成を開始する。

 あらゆる素材をぶちこんだ為、心なしかエフェクトが激しい。

 数秒の後に完成エフェクトが弾け飛びシステムログには、


『シ=ユノ式豪華トイレを得た』


 と、眼前にどでかい個室トイレが出現した。

 合成素材にアカマツ原木と塗装の原料である白の顔料で素敵な扉がつくられ、スズと銅を使い白く輝いている取っ手を掴み開ける。


「…………素晴らしい」


 壁面素材は大理石をぶちこんだのでピカピカ、もちろん床材も同じだ。

 先程つくったトイレがなお一層に輝きを帯び、トイレットペーパーホルダーは取っ手と同じ合金、ピューターインゴットで見目麗しい。

 中に入り扉を閉めて便座に座る。

 これは樹脂製の便座にカバーを掛けている。

 羊毛とフェルト生地を合わせてつくった肌に優しい素材だ。

 極上の座り心地であろう。

 頭上を見上げれば小振りで豪奢なシャンデリアがある。

 煌めく硝子と真鍮に少量の純金と銅、蝋燭の原料として蜜蝋を使ったので想像以上の出来映えだった。


「スマホがあればな~…………」


 SNS映えが半端ない。

 きっと数万いいね数千リツイートだろう。

 更には最高級バーチ材、重金属のマンガン、蒼鉛を元に加工してに適した金属プレート、フリギア旋法の楽譜をねじ込んで備わった機能、


オーケストリオジュークボックスオトヒメ!」


 これは『エンファンⅡ』のマイハウスでゲーム内音楽を流せる調度品で『シ=ユノ式豪華トイレ』に標準搭載させた。

 自然音から現代曲のあらゆる音楽を使のイメージを吸い取って演奏してくれる何とも気の利いたやつだろうか。


 そして大理石の景観を崩さぬよう配慮された上部タンクには水結晶があり、レバーを捻れば充分な水量が流れる。

 

 しかし、ここからの合成イメージに苦労した。


 排泄物を流すのは簡単だ。

 でも、その後の汚水処理をどうするかだった。

『シ=ユノ式豪華トイレ』は屋内仕様なのに排水管を備えていない。

 付けたとしても排水管から公共設備である下水管に繋がるわけもなく、また、『エンファン』世界に大規模な下水設備が備わっているという描写はなかった。

 仮にあったとしても中世レベルの粗末な設備で汚水処理能力のない、ただの下水道なのだろう。


 そこで、だ。


 通常、屋外に設置できる簡単のものに仮設式トイレがある。

 よく工事現場で見掛けるあれだ。

 あの仕組みは至ってシンプル。

 トイレの下に汚水を貯める『ポリタンク』があり、それを回収して処理するだけだ。

 なので『シ=ユノ式豪華トイレ』にもおなじをつくったのだが、ポリタンクも石油製品。

 まあ、あったとしても、結局、汚水処理には結局困る。

 中世ヨーロッパの処理方法は、二階から糞尿をぶちまけるだけの乱暴な方法で、町の通りは汚物で溢れていた。

 夢も希望もあったものではない。

 そこから現代ではファッション性の高い履き物、ハイヒールが発達したとされる。

 文化的にはほど遠い。


 だから、一計を案じた。


 合成前に必要とされるあらゆる素材の中に、泥岩、粘土、玉鋼たまはがね御影石みかげいし、各種金属インゴットと木材を投入したのもその理由。


 水洗トイレタンク付近の床から、金属レバーが生えている。

 くすんだ黄金色なので大理石の個室とよく馴染んでいるそれを握り引く。

 すると、がこんという鈍い音が聞こえた。

 トイレ下部にあるポリタンクの変わりの木桶が、後方にスライドした音だ。

 ちなみに受け部分は樹脂で固めて防水加工済み漏れ安心。

 もちろん、後方にスライドしたと同時に新たな木桶が装填されるので二度安心。


「ようやくクライマックスだ」

 

 トイレの後ろには煉瓦れんが作りの『かまど』のような小部屋がくっつき、そこにも火結晶を備え、汚水桶が来た瞬間、エネルギーを開放させる。

 すると、汚水は木桶と一緒に焼却処分され、後は灰を処分するだけとなるのだ。


「天才か私は!!」


 豪華すぎるトイレは持ち運べる大きさではないが、そこは便利なプレイヤー機能のアイテム収納があるので問題ない。

 灰も完全に焼却されたので無害だ。

 その辺にポイできる。


「これで旅のトイレには一生困らないな」

 

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