第9話 トイレットペーパーつくたった


 緑豊かな耕作地帯の『ストロベリー耕地』はその名の通り、肥沃な土地を利用した果実のストロベリーを一年中収穫できるように工夫されたエリアだ。

 段々畑をふんだんに利用し、様々な作物もあることから虫型モンスターが多いのだが、広い範囲に散らばっている為、レベル上げには微妙な場所だった。


「ちょっと甘酸っぱいかな?」


 そんな畑から拝借した果実『ストロベリー』を食べる。

 食事効果は一定時間、ステータス上昇が適用されるので必要なのだが、


 INT+2 AGI-4 食事効果時間5分


 生色は微妙な効果だ。

 しかし、合成職人のよる調理レシピから料理をつくれば、それ相応のステータス上昇効果が見込まれる。


 例えばストロベリーパイやストロベリータルト、ベリーチーズケーキと見るだけでヨダレが垂れそうなおいしそうな響きのスイーツは、魔法職にとっては重要なステータス上昇効果があり、MPや詠唱速度上昇、HP微増や回復魔法効果微増などなどおいしい。

 

 ただ、まあ…………

 

 ステータスウィンドウから調理レシピ確認すれば『エンファン』と『エンファンⅡ』の両方のレシピが混在し、ちょっと複雑である。

 相対的には『エンファンⅡ』のほうがレシピ豊富でおいしそうなのだが、その際に使用する合成素材が『エンファン』世界にはないので、どうやって代替えして調理するかが課題かな。


「ん? 食べることができるってことは…………、あっ!」


 重大な事実に気付いてしまった。


 これは極めて重大な事実で、早急に対応しなければならない。


 ――――摂取に伴うことで時間経過による排出もあるはずだ。


「…………トイレってどうしたらいいんだ?」


 いきなり難題にぶちあたった。

 現代日本による衛生面を当たり前に享受していたが、当然のことながら異世界ファンタジーである『エンファン』に清潔な水洗トイレが存在しているのか?

 ゲームでは描写されていない。

 建物のどこにもトイレはなかった。

 街中に公衆トイレもない。


 まあ、冒険がメインのMMORPGには必要のない設定か。


「だけど、今は必要なんだ!」


『エンファンⅡ』のマイハウス機能は、室内を自由にコーディネートできてシャワーやお風呂、タイルやフロアマットなどの浴室はつくれる。


「でもトイレはなかった」


 他の異世界転生はどうしてたんだ?

 各地を冒険してんだから野外ばかりのはず。


「そんな描写なかった……」


 万策尽きた。

 これは、もしがきたら…………


 ――――羞恥心を捨てるしかない。


「いやいやいやいや無理! 精神的防御力0だ、死ぬよ人間的に」

 

 ただまあ、

 人は一度絶望を味わって突き落とされて地の底まで落ちたら、そこから這い上がれるモノらしい。

 

 そういう時に限って閃くのだ。


「合成レシピ!!!」


 そこに答えはあった。


『エンファン』におけるクラスに『隠密士』、つまり忍者があるのだが、そのスキルには魔法と違い『術』というのがある。

 その中の一つに『分身術』があり、これは読んで字のごとく自分の分身を出してモンスターの攻撃を回避し、疑似盾役を担うことができるのだ。

 このスキルのおかげで『忍盾』『回避盾』という概念ができ、戦士や聖騎士の盾役を奪う結果となったのだが、今そこどうでもいい。


 分身術を使うにあたって媒介となるアイテムに『靭兵じんぺい』があり、それをつくる為に必要な中間素材に『靭皮和紙じんぴわし』がある。


 つまり紙だ。


 和紙だけど。


「まずはこれをつくろう」


 早速、収納から合成素材を取り出す。

 必要なのはニレの原木と麻と蒸留水だ。

 職人レベルが150でカンストしているので簡単につくれる。

 そして『エンファン』世界における合成とは『アース=レンド』に満ちているエネルギーが各結晶となり、その結晶にイメージを投影させて各属性エネルギーを抽出変換して物質を作り出すというものだ。

 原子核分裂や融合みたいなもんだろ、知らんけど。


「とにかく合成開始だ」


 靭皮和紙じんぴわしをつくる際に必要な『雷結晶』を用意し(アイテム収納に万単位である)、片膝立ちになって素材を両手で包み込むようにイメージし合成開始。

 するとばちばちとスパークしたようなエフェクトが数秒間続いて弾け飛ぶ。


 合成が成功した。

 ログウィンドウに靭皮和紙を手に入れたとある。

 

 さて、ここから先は合成レシピにない。

 多分、これを実行すれば新たな『神々の~』シリーズを覚えるに違いないが、今はそれが必要だった。


「靭皮和紙と水、風、火の結晶かな?」


 複数の結晶を使用する合成レシピは『エンファンⅡ』からなのだが、きっとできるだろう。


 精神を集中し、各結晶にイメージを投影する。

 風が切り裂き、水でほぐし、火で乾燥させる。

 数秒間、両手で荒れ狂う各結晶と合成素材。


 ――――そして、


 エフェクトが弾け飛んで、無事合成完了だ。


 ログウィンドウには、

『トイレットペーパーHQ(ダブルロール)×12を得た』


「やったーーーーーーーー!」


 万歳三唱の歓喜の叫び声を上げる。

 しかも合成レベルが高い時に成功するHQハイクオリティ品のほうだった。

 ちなみにNQノーマルクオリティだとシングルロールのようだけど。

 脳内イメージによる結晶合成ってなんて便利なんだ。

 理論上、素材さえあれば何でもつくれそう。


 とにかく、これで第一関門突破だ。


 ついでに、


『神々の願望』による新スキルを習得しました。

 効果、合成レシピにおいて実行者のイメージがより現実的に投影でき、かつ完成品にあらゆる制限がない。


 多分、これもチートスキルになるだろうが、今は良し!


 なぜなら異世界転生系では絶体にないであろう『トイレットペーパー(ダブルロール)』ができたんだからな!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る