第8話 プレイヤーどこですか?
潮風に乗って港特有の活気に満ちていることがわかるこのシ=ユノ大公国。
かつての凡結晶大戦時における獣人大同盟軍の猛攻をばらばらに対処していた近隣三ヶ国、『ルソレイア王国』、『ベイストック共和国』、『ヴィクトリアス連邦』をまとめあげ『アウロラ有志連合軍』を結成した功労国だ。
激闘の末、多くの犠牲を払いながらも、ついには獣人大同盟軍を打ち破って人類側に勝利をもたらしたとされる。
ただ、基本的には中立で商人達が集い収める商業国家で外交は大公、その他は議会が決めるようだった。
「あーーー、やってしまったーーー」
そんな一大商業国の港で後悔に苛まれる女、そう私が頭を抱えていた。
「絶対きもいって思われてる。ついその場のノリで正義の味方感を出したけど、あの台詞はマジできもいわ」
思い出す度に赤面する思いだ。
穴があったら入りたいとはまさにこの事。
完全に変質者だ。
「しかもうっかり偽名使うなんて。本物のブロントさんごめんなさい!」
一応、ゲーム名ではクレイア・クレイモアという名前があるのでそれを伝えればいいのに、てんぱってたというか、咄嗟に頭に浮かんだその名前が『エンファン』世界のプレイヤーには有名だったものだから……。
「まーでもNPCとはいえ助けられたから良しとするか」
気を取り直してシ=ユノ下層街の通りを歩き始めた。
この大通りを真っ直ぐ行けば、ストロベリー耕地という甘い名前のエリアに出られる。虫型モンスターがいっぱい生息するところだ。
ん? ちょっと待て。
おかしい、活気にわりには閑散としたイメージが拭えない。
シ=ユノは周辺三ヶ国からプレイヤーが集まり、ここを拠点として各地でレベル上げパーティーを結成したり、HNM討伐メンバーを募集したりする場所だ。
なのに、
その際に使うチャット機能の一つ、『シャウト』がない。
文字通り大声で叫んで仲間を集めるので、街中に入れば常にそのログがウィンドウに溢れるのだ。
「
だから静かなんだ。
装備を買いに来たり、ドロップアイテムを売りに来たり、魔法スクロールや高額品を直接プレイヤー間でやりとりする『フリマ』マークというアイコンを頭上に表示している人間が皆無だ。
周囲を見渡せばすべてNPCしかいない。
いやいや、そんな馬鹿なと上層街へ行ってみるも同じ状況だった。
プレイヤー同士のアイテムトレードをシステム的に担う競売マーケット前ですら誰もいない。
これはおかしい。
競売マーケット前にプレイヤーがいないのは特におかしい。
このアイテムトレードをシステム側で手数料を取り、ゲーム内通貨のゴルを売り手が決めて、買い手がゴルを払って手に入れるというのは、今でこそ当たり前かもしれないが、当時のMMORPGでは画期的なシステムで、以降のオンラインゲームでは当たり前に使われている機能だ。
なのに、競売マケ前は文字通りの閑古鳥。
高レベルプレイヤーから払い下げられた中古装備、レアドロップ品等、自力で集められない数々のプレイヤーを救う神システムを誰も利用していないとは考えられない。
どうにも腑に落ちないので競売マケの格子状窓口に声をかける。
「競売マケを利用したいのですが」
「まだオープンしてません」
「……………………なるほど」
理解した。
そりゃオープンしてなけりゃ誰も利用できんわな!
いやいや、待て。
利用できないのと、プレイヤーがいないのはイコールじゃない。
いくらチート状態だから接触したくないとはいえ、他のプレイヤーと会えないのは寂しい。
あ、そうか。
ひょっとしたらまだシ=ユノ大公国に辿り着けてないだけかも知れない。
もともと『エンファン』の初期開始位置はルソレイア王国、ベイストック共和国、ヴィクトリアス連邦の三ヶ国で、それぞれ大公国までの道程は同じくらい。
そして道中はレベル30のプレイヤーでも苦戦するモンスターがうじゃうじゃいるのだ。
当面の目的は決まった。
初期開始位置の国、かつて自分がプレイしてた時の心の故郷『ベイストック共和国』へ行ってみよう。
とその前に、下層街にある商工会議所で『飛行大艇のパス』を買っておこう。
これが何かというと、空飛ぶ船に乗れる許可証で、50万ゴルという破格値で買える。
NPCの一般庶民はもとより初期プレイヤーにだって買えるものではないが、そこは冒険者ランクを上げてミッションをクリアすれば手に入れられるのでゴルで購入しなくてもよい。
ま、私は金で買うけどね。
所持金数億ゴルあるし。
本当にゲームの中で稼いだ額面と一致していて驚くが、金に関してはチートは対象外みたいだ。
チートを与える神々は守銭奴なんだな。
ケチめ。
さくっと『飛行大艇パス』をゲットしたが乗るつもりはない。
どうせなら徒歩で行ってみたいのだ。
途中でプレイヤーに出会えるかもしれないし、何よりこの美しい世界をこの目で見たい。
絶景がたくさんあるんだよ、この世界『アース=レンド』には。
と、ここである重大なことに気付く。
競売マケって確か、ゲーム稼働から1か月後のアプデで実装されたはず。
ってことは…………
まだゲーム自体が始まってないor始まったばかりなのでプレイヤーいないんじゃね?
え!
じゃあ、やっぱり…………
「この世界にプレイヤーって私だけしかいないってこと!?」
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