第6話 ベヒぴょい
はち切れんばかりの筋骨隆々な四肢を大地に踏みしめて、獰猛な雄叫びを上げるHNM『ケーニッヒベヒモス』の前へと踊る出る。
やっぱ近くだとすごい迫力――――
ゲームの時は周りの視界を確保するために俯瞰視点が多いが、こうして主観で眺めるとモンスターが大きいこと。
背後には腰を抜かしたシ=ユノ大公国親衛隊とそれを介抱する男、そして健気にも巨獣相手に剣を抜き対峙していた女隊士。
濃密な死に直面していた為に顔面蒼白で剣先も震えている。
瞬時に聖剣を抜き払い、地面を蹴る。
シ=ユノ大公国親衛隊のNPCはプレイヤーよりもHPが高く設定されているとはいえ、ケーニッヒベヒモス相手では分が悪すぎる。
別に倒されても蘇生魔法をかければ復活するが、目の前で戦闘不能になられては目覚めも悪い。
聖盾を構えて巨獣と女隊士の間に割って入る。
「よく頑張った。後は任せろ」
そう声をかけて聖騎士スキル『庇う』を発動させ、対象を女隊士に指定。
『庇う』の効果は対象への物理攻撃と魔法攻撃を30秒間すべて引き受ける。
が、対象単体なので残った二人が庇いきれない。
一応『リッターオルデン』の自己後方扇範囲に被ダメ軽減20%も発動させたが、多分、これだけじゃ昇天しそう。
その時、視界のログウィンドウにNew表示が出た。
『神々の御礼』による新スキルを習得。
新スキル『テンプルラウンド』効果時間12秒、自身後方扇範囲のプレイヤー及びNPC、オブジェクトに対するダメージを無効化する。
「たまには良い仕事するじゃん」
この時ばかりは神とやらに感謝してもいいだろう。
ケーニッヒベヒモスがメテオインパクトの詠唱を完了させた瞬間、紅蓮の炎を纏った灼熱の隕石が着弾し、峻烈な衝撃波と猛烈な業火が炸裂した。
耳朶を激しく揺さぶる轟音と熱波が襲ってくるが、
――――まあ、当然私にダメージはない。
頬が暖かい程度だ。
レベル差補正とインフレステータスを加味すればバフを炊かなくても大抵のダメージは0なのでゲーム的には何の面白みもないけどね。
「だが、人間に仇なす巨悪の根源を許すわけにはいかない」
背後に聞こえるように格好いい台詞を放つのも、何かの拍子で『魔王』扱いをされないよう後の好印象を残す為だ。
ぶっちゃけこんな台詞は恥ずかしい。
素面じゃとてもじゃないが言えない。
言えたけど。
「バーサーカー、魂の叫び、ウアシュプルングゼーレ!」
立て続けに戦士スキルと、そのスペシャルスキルを使う。
『ウアシュプルングゼーレ』は45秒間、自身の
ちなみにASというのは武器の必殺技なのだが『エンファンⅡ』では途中でなくなったTPを消費して使う技だ。
『エンファン』では戦いながら少しずつ蓄積されて100になったら使用できるものだが、私のステータスにTPの概念がないので使いたい放題プラン!
はは、マジチート。
そして聖剣を構えて戦士の高レベルASを使用。
「フェルフューリー!」
対象に猛スピードで飛び掛かり、その対象と周囲の敵に強力な範囲物理攻撃を与える技で、必ずクリティカルヒットする。
ぶっちゃけ『ウアシュプルングゼーレ』中はこのASじゃなくてもいいけど、単純に飛びかかれるので使っただけ。
一瞬でケーニッヒベヒモスへと迫り、インフレステータスによるフルバフAS攻撃を叩き付ける。
メテオインパクトよりも絶大なエフェクトでケーニッヒベヒモスを両断して大地をもかち割り、大量の岩盤と粉塵を巻き上げ辺りを覆った。
「はいオーバーキル」
舞い上がる粉塵を虚しく見上げ、自嘲気味に笑う。
あ、そういえば後ろの方々は本当に平気かな。
後ろを振り変えれば、目と口をまん丸にした女隊士がいた。
どうやら無傷のようで、他の二人も何が起こったか分からない顔をしている。
――――多分これ、やり過ぎた、よね?
詮索される前に逃亡するに限る!
ステータスウィンドウからサブクラスを『シーフ』へと変更。
「あ、あの……、貴方のお名前は?」
やばい!
女隊士が尋ねてきた。
く、だが、名乗りたくない……けど、それは礼儀に欠けるのでは?
そんな無愛想では後々の名声に響くかも。
「…………わ、たし、は…………ブロントです!」
咄嗟の偽名を発した後にシーフ専用スキル『ずらかる』を発動。
効果時間30秒、効果時間中の移動速度がおよそ2倍になる。
脱兎のごとく駆け出した(逃げ出した)。
後方から制止を求める声が聞こえたものの、今更偽名の撤回も面倒だしとにかく関わると色々ありそうなのでやっぱり逃げるが勝ち。
『神々の御礼』による新スキルを習得しました。
「なに? また新スキル?? 何のだよ???」
『ずらかる』が進化し固有スキル『
「違うゲームのスキル習得しちゃってんじゃん!? どこのウマ女だよ!」
およそ人類では出せないであろう速度でシ=ユノ大公国に到着してしまった。
どんどん人間でなくる自分に、もはや盛大な溜息しか出なかった。
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