第5話 魔王爆誕


「自分がどんどんバケモノになっていく……」


 抉れた大地に佇み薄寒い空を見上げた。

 何かアクションを実行する度に『神々の~』といった壊れスキルが付与される。


 なんなんこれ?


 全然、嬉しくないんだが…………


 気付けばラスボス(正確には追加ディスク第四弾『永狂彼誰神徒アウロラ』での裏ボス。要はアプデごとに増えるボスの一人)前にいて、それを瞬殺できる強さを持ってこのゲーム世界『エンドファンタジア』にいた。


 ぶっちゃけ前世というか、どうしてここにいてこうなったかまったく記憶にない。

 自動車事故だとか急性心不全とか、とにかく死んだ記憶がない。

 まさか、核戦争とか地球に隕石とかで一瞬で蒸発したのなら分からなくもないが。


「…………そんなことないよね?」


 周辺に誰も何もいないことを理解している上での独り言だ。

 そもそも荒野を焦土化せしめてあらゆる生物モンスターを死滅させた元凶は自分だ。

 

 ――――これじゃ私が隕石だ。


 溜息一つ吐き出して、ポジティブシンキングに思考を切り替える。


「もう目覚ましに叩き起こされる生活をしなくていいんだ!」


 そうそう、もう会社行かなくたっていいんだ。

 な上司からの永遠な嫌がらせをされなくてすむ。

 別に自分は気にしていないのだが、どうやら私の身長が高すぎていつも見下ろしてしまうのが気に食わないようで、ひたすら面倒な仕事と回してくるのだ。

 そのせいで残業は当たり前の社畜生活の人生となったのだ。

 面と向かって私に何も言えないからこその嫌がらせに腹が立ってくる。


 ――――あんたに叩き込む為のスキルだったら最高なのに。


 自慢じゃないが私のツラは凶悪だ。

 無駄に背も高く、目付きも悪いのでその狂気の三白眼邪眼の力をなめるなよに見られたら子供も泣くし(経験済み)独裁者も恐怖のあまり私に向けて核ミサイルの発射ボタンを押す。


「あっっっ!?」


 凄くやな予感がした。

 慌ててスキル欄を確認する。

 

 New →『神々の御礼』


 多次元能力開発付与の効果。現存する魔法やスキルとは『別次元』の能力を生み出す。

     

「あーーーーもーーーーー」

 

 ウィンドウログに羅列した項目に、新たに九つ目の属性魔法『邪属性魔法』を習得したとある。


「…………邪神極殺憤龍炎?」


 対象範囲に邪属性ダメージ、対象を自身に指定すると『邪神極殺百烈拳』45秒間発動、攻撃する度に相手のHPを吸収する。


「…………邪神極殺斬鉄剣???」


 対象を即死させる、ただし闇魔法属性耐性の高い対象には軽減レジストされ、残MP割合でのダメージとなる。


「…………邪神極殺絶龍波??????」


 メインクラスまたはサブクラスが召喚師の時のみ発動可能、究極召喚『絶真龍バハムート』を召喚できる、対象指定すると『エクサフレア』を使用、前方扇範囲に邪属性大ダメージ。対象を自身に指定すると60秒間、自身が『絶真龍バハムート』になり広範囲に『厄災』を巻き起こす。


「激しく見覚えのある能力開発してしまったーーーー!! しかもこれ絶体、自分が魔王にされちゃうレベルのヤバイ魔法になってるよ特に三番目!!!」


 膝からがくりと崩れ落ちる。

 

 もう駄目だ、【魔王】になる道しか残ってない。


 未来が見えるよ、調子にのって能力連発した私が【勇者】に討伐される未来が。

 

 あー、これが異世界転生しても詰んでる人か…………。

 

 荒波が崖を打ち付ける音がする。

 だが、寒風吹きすさぶ荒野で消沈している場合ではない。


「使い方を間違えなければ……、大丈夫なはず」


 そうだ。


 この能力をちゃんとした方法で使えばいいのだ。

 

 私利私欲でなく!


 というわけで秒で立ち直り、シ=ユノ大公国都市とは真逆の方向へ歩き出す。

 行き先は『巨獣ベヒモスの縄張り』だ。

 名称の通りフミキュー島最北端にあるNMノマドモンスターで、いわゆるフィールド型ボスモンスターだ。

 そのエリアのモンスターレベルは大体40~50でここのカニよりも遙かに強い。

 ちなみに『ベヒモス』のレベルは75~80で『エンファン』最初期のレベル上限55ではまったく歯が立たない相手だった。

『エンファンⅡ』だとフィールド大規模PvEで戦えて、数百人のプレイヤーによるフルボッコでさして苦労する相手ではない。


 うんうん、NMを倒して冒険者として名声を上げよう作戦で善行を積むとしよう。


 鼻歌交じりに『巨獣ベヒモスの縄張り』に進入エリアチェンジする。


「うわああああ、助けてくれえええええええええ!」


 と、何やら悲鳴が響いてきた。

 きっとベヒモスに襲われているんだろう。

 もちろん、助けに走り出すが、一抹の不安もある。


「プレイヤーだったらどうしよう…………」


 正直、目立ちたくない。

 さくっとベヒモスを倒して羨望の眼差しを送られるかもしれないが、所詮はプレイヤーだ。時期に嫉妬心に変わり、無実の罪で追われるかもしれない!


 が、しかし、ほっとくわけにも行かないので、とりあえず現地へ直行する。

 すると、前方に腰を抜かした人間を発見。

 素早く対象を『じっと見詰めた』。


「あ、NPCだ」


 シ=ユノ大公国の親衛隊だった。

 

 っていうかNPCが何の目的でここにいるんだ?


 という思考を切り裂く獣の大咆哮。

 視点を転ずるとそこには仁王立ちしたベヒモスがいた!


「おお! ケーニッヒベヒモス!!」


 ハイレベルノマドモンスターHNMだ!

 通常NMのベヒモスを倒すと大体24時間で再ポップするが、その時の抽選でコイツにあたることがある。

 当然、通常のベヒモスより85レベルと高くも強い。


 それがなんと、


『メテオインパクト』の詠唱をしていた。


「こ、これは――――!」


 NPCを助けるチャーーーーーンス!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る