第3話 オーバーキル


 一旦、落ち着く為にステータスウィンドウをそっ閉じした。


「ここを出よう!」


 仮にこのゲーム世界に神と呼ばれる存在に転生させられたとして、何か頼み事をされる前に逃げ出したい。


 神とはいえ他人から命令されるのはもう懲り懲りだ。

 現世で散々、会社の命令で働いてきて見返りは何にもなかった。


 え? 対価として給料??


「安すぎるっつーの!!」


 沸々と怒りが込み上げてきそうだったので、現世の会社は忘れよう。

 とにかく、神とやらの頼み事があったとして、その対価が破格のステータスとかマジでいらんわ。

 あえて望むのであれば、そうだな。

 現世でなし得なかったセミリタイア。

 

「つまりスローライフ生活!!」


 拳を握り、堂々と宣言するも、本当に神が出現したらやっぱり面倒なのでとっととずらかることにする。


「確かこの最終ステージまでは、転移で来たはず……?」


 辺りを見回して、何やら空間がほのかに明るく歪んだ箇所を発見する。

 そこまで近付いて触れると、


『このフィールドを出ますか?』


 とログで表示されたので、もちろん、はいだ。

 

 視界がホワイトアウトする。

 眩しくて目を閉じてしまったが、微かな風の音を拾った。

 

 恐る恐る目を開けば、


 天球に広がる青空が眩しい!

 潮の香りが鼻腔につく!


「おー、ここフミキュー島かー」


 最終ステージに飛ばされる場所は、ごつごつした岩場と断崖絶壁が連なり、氷と洞窟で構成された荒涼とした場所で、荒れ狂う海に面する寒々しいエリアだ。

 ただ、大陸中央『シ=ユノ』大公国に隣接するエリアでアクセス抜群、駆け出しの冒険者がいよいよ本格的にパーティーを組んで、レベル上げをする仲間を募集する都市があり、かなりの活気がある場所でもあった。

 

 ――――敵のレベル帯は25~34くらいかな?


『エンドファンタジア』では自分よりも高レベルの敵を倒したほうが多くの経験値が貰えるので、ここを狩り場とするならば、大体レベル20くらいの6人パーティーを組むのが丁度いい。

 そしてレベル25ぐらいになったら卒業して、また適正エリアでレベル上げするというサイクルを繰り返すんだよね。

 

 懐かしい…………


 あの頃の私は輝いていたな…………


 おっといかんいかん、しばしノスタルジーに浸ってしまった。

 だってさ、あそこでテクテク歩いてるカニ型モンスターがさ、懐かしすぎるんだよ。

 もちろん、最新作でもあのカニは出現していたが、前作ではアイツが経験値稼ぎに丁度良くて狩りまくっていたんだよ。

 弱いし強いスキル技ないしで。


 しかし、こうやって改めて見回すと、見事に誰もいない。

 本来だったら冒険者パーティーの経験値稼ぎで、そこそこ賑わっているのに。

 いるのはカニ型モンスターばかりだ。

 だが、海岸線をウロウロと走り回る業者対策として実装された獣人族のゴブリンは見掛けない。

 ソイツは該当エリアに対して少しレベルが高いモンスターで、主な仕事はツールを使った低レベルプレイヤーの『寝釣り』を根絶やしにする存在だ。

 まあbotを使った金策対策用モンスターってやつだね。

『エンドオブファンタジア』は倒されたら経験値ダウンのペナルティがあった為、一度ならず何度か絡まれて倒された経験がある。 


「思い出したら腹たってきたな……」


 苦い思いが蘇ってしまった。

 仕方ない。

 私はそっと刀身が黄金色に輝く聖剣を抜刀する。


「君達には罪はない。だが、心の平穏の為に死んでくれ!」


 なーんの罪もないその辺を動き回る大人しいカニ型モンスターに素早く近付いて、地面に思い切り剣を叩き付けた。


 アクションスキルのハイリヒドゥーム!


 自己中心範囲で天まで届く八つの光柱が地面から吹き出す光属性物理攻撃、敵視上昇効果、追加効果スリップダメージあり。 


 ………の、はずだった。


 だが、地面を叩いた瞬間、エグいぐらいに大地が陥没して抉れ、光柱が同心円状の輪を形成し、頬が波打つ衝撃波が全範囲に広がった。

 幾重もの土と岩石が舞い上がり、自分を中心とした場所は隕石が衝突したかのようなクレーターが出来上がってしまう。


「………………え?」


 またしても呆然としてまう私。

 あまりの衝撃に辺りのモンスターは塵となって吹き飛び跡形もない。

 完全なるオーバーキルだ。

 

 いや、こんな激しいエフェクトじゃなかったはずなのに、なんだこれ!


「こんなん完全にバケモノやん!?」


 固有スキル『神々の祝福』ステータス異次元補正のせいだろこれ。

 そして案の定、ログウィンドウに戦利品のドロップが確認される。

 フミキュー産蟹肉と表示されたアイテムがずらりとログに並び、全部収納されたようだ。


「…………そういえば収納ってどうなってんだろ」


 環境破壊レベルの惨状から現実逃避する為に、ステータスウィンドウからアイテム収納を選んでみる。

 すると、見覚えのあるアイテムスロットが視界に表示された。

 1スロットに100個のアイテム収納だが……、


「スロットに上限がないんだが…………?」


 どんなにスロットをめくっても次々とスロットが現れ、しかも『エンドファンタジア・ツヴァイ』で集めてたであろうアイテムがめちゃくちゃあった。

 まるで異次元収納だ。


 ん……?


 スキル欄を開いてみる。

 固有スキルに何か追加されていた。


『神々の寵愛』効果永続 装備やアイテム収納に制限なし。


「またお前かーーーーーい!」

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