曾祖母の米寿祝い

マクスウェルの仔猫

第1話 曾祖母の米寿

 小春日和の週末、五月さつきは曾祖母の米寿のお祝いの為に、父親の実家へ向っていた。五月の父親は仕事の都合で別々に実家に向かうという事で、五月と五月の母親は、父親の弟である叔父の車に同乗させてもらっていた。五月の従兄妹、叔母、五月とその母親、総勢五人での移動である。


 五月は、夏冬といった学校の長期休みに、父の実家に来るのを毎回楽しみにしていた。


 いつまでも眺めていたくなる小さな踏切と小道。

 ふんわりとした優しい、畳の薫りがする家。

 優しい曾祖母や祖母一家、親戚達と囲む食卓。


 そんな五月が、曾祖母のお祝いにいかないという選択肢はなく、今回は米寿のプレゼントとして手編みの毛糸の帽子と靴下を用意した上で、ついてきたのだ。五月より三つ年下の従兄妹も大はしゃぎである。


 五月の曾祖母は、最近少し足腰が弱くなったらしいが、矍鑠として元気いっぱいに出迎えてくれた。


 五月の祖母が「母親がシルバーカーで、娘の自分が電動カートという訳にはいかんわ!」という一心で、母親が出かける際は必ず付き添って身体を動かし、家でも二人がちょっとしたストレッチ等もしているという事実に、五月は驚きつつも笑った。訪れる度の、いつもの楽しそうな雰囲気が何ひとつ変わっていなかった事が嬉しかったのだ。


 五月が持参した米寿のプレゼントの帽子と靴下、祖母への手編みの手袋を始め、皆から渡された心尽くしの誕生祝いとプレゼントに、二人は大層喜んだ。五月も嬉しくなり、冬休みにまた来ると告げて、帰路についた。


 五月の父親は合流が間に合わず、入れ違いで実家に向かっているようであった。


 その帰り道、車が渋滞にハマった。

 五月の叔父が、やれやれ…といった感じで前方を見ていたが、ふと呟いた。


「婆ちゃんや母ちゃん元気そうで良かったわ。しっかし、うちは男より女の方が断然長生きするって聞いてたが、俺や兄貴より長生きするわ、ありゃ」

「ひいばあちゃんもばあちゃんも、100歳まで長生きするよ絶対!」


 五月の従姉妹がそう言って、みんなが笑いつつ同意する。


「私もあんな風に可愛いおばあちゃんになりたいな!」

 

 そう言う従姉妹に、叔父は笑って言った。


「友香は、どんなおばあちゃんになるんだろうな。お父さんとお母さん、見てみたいなあ」

「んっとね!んっとね!友香はね~…」


 五月は叔父のその言葉に笑ったあと、心臓をギュッと掴まれた気がした。


 それは、それは、叶うかどうかわからない願い。

 家族が大好きな叔父の想い。


 五月は、叔父一家と母親と一緒にひとしきり笑った後、叶えばいいな、叔父さんの願い…と思いつつ、動き出した夜景を眺めていたのだった。


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