ユズ

1.

 僕には幼い頃離れ離れになって居た姉がいる。

 今は訳合って一緒に暮らすことになっているのだけど。

 その姉は屋敷の庭園で一人でコーヒーを飲んでいた。

「ユズ、こんな所に居たんだ」

 よっ、と手を挙げるユズの隣に座る。まだ外は少し風が冷たい。

「気分転換にね。仕事もそんな楽じゃないし」

 そう言いながらわざとらしく伸びをするユズ。

「で、わざわざ探してたの?」と問われる。

「そう。今日はホワイトデーだから」とユズに返す。


2.

「チョコなんてあげたっけ?」

「ゆめと一緒に作ってたのをくれたでしょ、一応って言いながら」

 あぁ、と頷きながらコーヒーを一口飲み、僕の顔を見るユズ。

「で、お返しをくれると。ご丁寧なこった」

 笑いながら両手を差し出すユズ。「ほれ、お姉ちゃんに見せてみな」

「はいはい、これだよ」とキャラメルが入った包みを手渡す。

「あれ、私がキャラメル好きなの知ってたっけ?」とキョトンとした顔をするユズ。

 ただの偶然なんだけどなと笑いながら「それは知らなかったけど、好物なら何よりだよ」と手渡す。


3.

 包みを開け、包装紙を解き口にするユズ。

「ふぅん、美味しいじゃん。合格」と笑顔で頷く。

 その時少し強い風が吹いた。

「うー、寒いな。シオン、キャラメルラテなんて作れたりする?」

「確かシロップがあったはずだから作ってくるよ」

 そう言いながら庭園を後にする。さて、姉が風邪を引かないうちに作るとしよう。


4.

 出来上がったキャラメルラテを庭園に運ぶ。

 ユズは庭園のテーブルに突っ伏して寝ているようだった。

「まったく、どこまでも手間がかかるお姉さまだこと」

 起こさないようにユズを抱きかかえリビングのソファーに寝かせる。

 キャラメルラテは起きた時にでも淹れ直してあげよう。

 そう考えながら寝ている姉を見て、安心感を得た。

 あぁ。お姉ちゃんはもうどこにもいかないんだ。


5.

 キャラメルに込められた意味は貴方と一緒なら安心、と言った所だ。

 つまるところ、ユズがここに住むようになってから離れ離れだった十数年の溝が埋まっていき、本来の姉弟としての感覚を取り戻しつつある。

 この意味をユズは理解しようとしないのだろうけど、それでも……僕の為にもゆめの為にも。

 この屋敷でずっと一緒に過ごしたい、僕達の安心できる居場所として。

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