88歳の魔法少女

山岡咲美

88歳の魔法少女

ある日、彼女は魔法少女になった。



剣双けんそうくん、魔剣を出すわ、その剣であいつ真っ二つにして!!」


 高校生の彼女、魔美まみはそのクラスメイトの魔剣騎士、剣双に魔法少女のマジックアイテム、プラチナタクトを振りながら指示を出す。


「解った任せろ魔美!」


 魔剣騎士、剣双はそう言うと両手を左右に広げ手のひらを天に向け二振りのつるぎを望む。



 呪文の詠唱が始まる。



「さあ魔につかえし者よ、天の正義に抗いし者よ、そなたが自由を求めるならば、そなたが愛を求めるならば、そなたに抗う力をやろう、それは自由のつるぎ、それは愛のつるぎ


 魔法少女、魔美はマジックタクトを振るう、それは赤や橙、青や緑の光輝く星をチラシながら彼女の回りに魔法の文字、ルーン文字を浮かばせて行く。


「さあ受け取るがいい!!」


「自由のつるぎ、ソードオブリバティー!」

「愛のつるぎ、ソードオブラブ!」


 魔剣騎士、剣双の天に向けた手の平に丸い穴がく、それは魔法のゲート、それは魔法の宝物庫へと繋がり、青空のような清んだ魔剣[ソードオブリバティー]と怪しくピンクに光る魔剣[ソードオブラブ!」を吐き出した。



「行くぞ神の使徒! 世界の摂理など知ったことかオレは魔美を守るんだ!!!!」



 魔剣騎士、剣双は真っ白な翼をはやし美しく気高く、そして人に正しさを強要するそれに、自由のつるぎと愛のつるぎを突き立てた。



「……剣双ごめんね、こんな事に巻き込んでしまって」


「気にするなよ魔美、魔美の為ならオレは何時だって何とだって戦えるぜ!」





********************





剣持けんもちさん、お孫さんがお越しになってますよ」


 剣持さんと呼ばれた老人の病室に高校生くらいの女の子を連れ看護師がやって来た。


「……ありがとうございます、看護師さん」

 老人は少し困った顔でそう言った。


「気にしないで下さい、隣の病室に用事があったからついでですよ」

 看護師はそう言うと隣の病室に向かった。


「ふふ、お孫さんだって」

 高校生くらいの女の子は照れ臭そうに笑う。


「苗字が同じだからな、孫と間違えられても仕方ないよ」

 老人は老いた指で白髪をつまみ『ずいぶん歳をとったからね』と困り顔で笑う。


「夫婦なのに失礼だよね剣双くん!」

 まだ高校生くらいに見える、魔美は何で雰囲気で分からないかなと少しむくれる。


「ハハ、さすがに夫婦には見えないさ魔美」

 剣双は鼻をかいて『看護師さんもこの見た目で夫婦とは思わないだろうと』とまた困り顔で笑った。


「でも心配しましたよ、まさか子供を助けようとして階段から落ちるなんて」


「よる年なみには勝てんもんでね」


「本当に心配しました……」


「……すまない」


「……………」

「……………」


 二人に沈黙が流れ、剣双が言葉を切り出す。


「ところで魔美、大丈夫かい?」


「使徒、ですか剣双くん?」


「……ああ」


「大丈夫、息子の剣元けんげんは会社だけど、ちっちゃい剣太けんたが「お婆ちゃんはぼくが守るんだ」って言ってくれてるから」


「そうかい、剣太が」


「剣双くんも少しはゆっくりして下さい」


「ハハ、解ったよ、魔美」


「…………ありがとね剣双くん」


「どうしたんだい?」


「お礼言いたかったの」


「気にするなよ魔美、魔美の為ならオレは何時だって何とだって戦えるぜって、いつか言ったろ?」



「88ですよ……」


「ああ、88歳だ」



 ある日、彼女は魔法少女になった。


 そして魔法少女はずっと少女のまま歳を取らなかった、彼女は神のルール、世界のルールから外れ、ずっとずっと大切な人達に守られ生きて来た。



「剣双くん私生きるね、生きていたい、どんな命でも、神様の、世界のルールから外れていても、私に生きて欲しいと守ってくれた貴方が、貴方達が居てくれるんだから、私生きてみせるよ」





 病室に柔らかな風が流れ込む。

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88歳の魔法少女 山岡咲美 @sakumi

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