その微笑みに乾杯
可笑しいから笑っているけど
楽しくて笑っているんじゃないと
あの
そのときだってあの娘は笑っていたし
誰だって
泣いているところなんか見たことはなかったさ
悪態をつき
泣き言を吐いている女々しさとは
無縁の娘
強いのさ
負けないのよ本気だヨ
息巻いて
独りぼっちでつぶやいて
壁を相手に
こぶしをぶつけて
爪を割る
それでも涙なんかは流さない
悔し涙を浮かべても
鏡を見ながら笑ってる
バカなやつだよ
鏡の向こうで
あんたは誰よ
名無しのキミは
誰でもないさ
もしかしたらそうかもしれない
君の可能性と
そうとでも言っておこうよ
優しげに巻き毛のキミは
蕩けるような笑みを浮かべ
青い
真っ赤なルージュ
酷薄に冴える瞳の奥が
笑っていた
男のようで
女にも見える
その
曖昧な美しさが
わたしなのさ、と
”あたしはそうじゃない”
吐き出すようにささやいて
鏡に背を向けて嘆息する
何でもかんでも
白黒つけて
あたしはアンタじゃないからと
口から飛び出すの
値打ちのない
言葉の嵐
だから
怖くて怖くて
たまらない
言葉が尽きたら
アタシは
わたしはお終いだ
そうじゃなくても
そうなんだ
言い聞かせ震えてる
お酒も飲まずに笑っているしかない
アタシは毎日毎日
元気なフリで
この世と自分を笑い飛ばすしかない
空虚な独り暮らしの
アパートで
(何してる?)
誰も知らないから
誰も助けてはくれないの
陽気なネ~ちゃんだよ
威勢が良くて跳ねっ返りの
姐さんさ
そういう世間の評判も
煩わしいけど
それでも
それでも
捨てられないんだ
ヒトは”看板”降ろしてちゃ
生きていけないから
それを背負って生きている
つまづいても
よろけたって
かまわない
バカじゃないの?
鏡の向こうのそれは
泣き笑いの相好を浮かべ
そんなこと考えるのはアンタだけさ
みんな忙しいんだ
自分のことを考える暇だってありゃしない
そんなに自分が大事かい
そんなに自分が大事なら
もっと自分を可愛がらなくちゃ
何様のつもりだい
何と戦ってるの
負けたことないんでしょ
勝ったこともないくせに
瞳に怒りの色
いっぱしぶってるんじゃないよ
その口元には薄笑い
ヒドイ奴
ヒドイ奴だ
なんだって言うんだ
「だから言うんだよ」
言葉に出して、さ。
生々しいその声
そのセリフはあたしが言った。
鏡の向こうのアタシに向かって
独り言
アタシはお化粧してるの
自分を見てる
ザマーミロ
アタシという名の
「世界の天秤」は
こうやって釣り合いを保つのよ
右に左に揺れ動く
アタシの心の平衡を
そうでなくちゃ
そうしなくちゃ
たまらないもの
ね、そうでしょ
そうでなきゃ許さないわよ
ね、そうだと言って
そうじゃなきゃ
わたしは壊れてしまう
こ・わ・れ・て・しまうわ
壊れた女はそう言って
今日も化粧台の前に立つ
取り繕い
塗り込めて
きれいなお顔
だから
ほ・め・て・よ
ほ・め・…よ
女の個室は病院にある
今は二十四時間
監視され
お望み通りの暮らしを送る
いまは楽しいのかい
彼女は
笑っているよ
可笑しくはないけれど
笑っているよ
そんなキミを見ている
わたしたち
君はどう思ってるのかな
今の世界を
キミは王女様になって
あなたの世界を統治する
たった一人の
王国の主になって
明日も笑って生きてゆく
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