第19話「カイテル公爵夫人パーティ会場を巡回す」モブざまぁ
――カイテル公爵夫人視点―
パーティは社交の場であるのと同時に数々の噂が飛び交う場所。
今日噂の的になるのは誰かしら?
「聞きました。
レーア・カイテル様のお話」
「聞きましたわ。
第一王子のベルンハルト様に婚約破棄されたのでしょう」
「ベルンハルト様はレーア様との婚約を破棄し、伯爵令嬢のハンナ・シフ様と手に手を取り合って駆け落ちしたのでしょう?」
「真実の愛ね!
ロマンチック!」
「第一王子に捨てられたレーア様は、親にも見捨てられ、貧乏男爵家に嫁に出されることが決まったそうですわ」
「オーベルト男爵はボサボサ頭に瓶底眼鏡のダッサイちび男だそうですわ」
「レーア様ったらそんな殿方に嫁がされるなんて、哀れね」
「今日のパーティに、レーア様は男爵様と一緒に参加なさるんでしょう?」
「オーベルト男爵は、きっと時代遅れのボロボロの衣装着て参加されるのよ」
「貧乏男爵様はダンスができるのかしら?」
「無理でしょう?
貧乏男爵家ではダンスのレッスンをしてくれる家庭教師ら雇えないわ」
「落ちぶれたレーア様を見て、笑いものにしましょう」
「いいわね〜〜」
今レーアちゃんの悪口を言っているのは、ザイツ子爵家のノアナ、コルベ子爵家のフリーダ、ザイドラー子爵家のマーラね。
私の特技は一度見た人間の顔と名前を忘れないこと。
この国の貴族は庶子に至るまで、顔も名前もスキルも把握しているわ。
それにしても、ベルンハルト様がハンナ様と手に手を取り合って駆け落ち?
三人とも世情に疎いにも程がありますわ。
あとで真実を教えて、地獄を見せてやりましょう。
そろそろレーアちゃんとミハエルくんが会場入りする時間ね。
高位貴族から入場していくから、男爵家の入場は最後の方なのよね。
「レーア様だわ」
「瓶底眼鏡のちび男爵を笑いものにしてやりましょう」
「えっ……でも、レーア様をエスコートしているのはオーベルト男爵じゃないわ!」
「オーベルト男爵はボサボサの黒髪に瓶底眼鏡のひょろひょろのちびでしょう?
でもレーア様のお隣にいるのは……」
「漆黒のサラサラヘアーに、黒真珠の瞳の長身のイケメン……。
レーア様をエスコートしているあの美男子は誰!?」
「レーア様をエスコートしている方が身につけているのは、フランツ・クラウゼが仕立てたオートクチュールのジュストコールじゃない?!」
「えっ?!
でもフランツ・クラウゼへの依頼は一年待ちだって聞いたわ……!」
「レーア様がフランツ・クラウゼがデザインしたオートクチュールのジュストコールを着た美男子にエスコートされて会場入りするなんて……」
「レーア様は浮気しているのよ!
いくらちびダサ眼鏡の男爵にエスコートされるのが嫌だからって、
婚約者以外の男にエスコートされてパーティに来るなんて最低!」
「同感よ、社交界にこの噂を流してやりましょう!」
「ストップ。
お嬢さんたち〜。
どこの〜誰が〜浮気者なのかしら〜?」
「誰って、カイテル公爵家のレーア様が……っ!
カイテル公爵夫人!」
私の顔を見た三人は顔を青くした。
まさか私が聞いているとは思わなかったみたいね。
ステルスの魔法で気配を消して近づくくらい簡単よ。
「これは、ですねえーっと……。
レーア様が婚約者以外の男性にエスコートされていたので……浮気かと」
「あら〜不思議ね〜。
以前のパーティで、ベルンハルト様がハンナさんをエスコートしていたのは真実の愛なのに、レーアちゃんが婚約者以外の男性にエスコートされるのは浮気なの〜?」
「それは……」
そんなに前から話を聞かれているとは思っていなかったみたいね。
ご令嬢たちが目を白黒させているわ。
「ザイツ子爵令嬢、コルベ子爵令嬢、ザイドラー子爵令嬢、
あなた達の発言は〜、全部録音させてもらったわ〜。
ねえ〜、チェイ〜」
「はい、奥様」
チェイが録音機を三人の令嬢に見せた、チェイは有能ね。
ザイツ子爵令嬢、コルベ子爵令嬢、ザイドラー子爵令嬢は私が家名を言い当てたことに驚いている。
私が下位貴族の名前を覚えていないと思ったのかしら?
甘いわよ。
「レーアちゃんは〜、今日婚約者にエスコートされているの〜。
それが〜、どうして浮気になるのかしら〜?」
「えっ?
婚約者?」
「ですが、レーア様の婚約者のオーベルト男爵は……」
「ボサボサ頭に瓶底眼鏡の背の低いひよろ男〜?
あなたたちの発言は〜、全部聞いていたわよ〜」
令嬢たちの顔色が青から紫に変わる。
「レーアちゃんをエスコートしているのは〜、間違いなくミハエル・オーベルト男爵よ〜。
私が保証するわ〜。
ミハエルくんは〜レーアちゃんの為に〜、修行して〜、かっこよくなったのよ〜」
「奥様が開発した高級シャンプーとトリートメントと化粧水と乳液の効果は抜群ですね。
オーベルト男爵のボサボサの髪はサラサラに、頬のそばかすは消えすべすべのお肌になりました」
「「「カイテル公爵夫人が開発した高級シャンプーとトリートメントと化粧水と乳液!」」」
令嬢たちの目の色が変わる。
「今度〜、国内の貴族向けに〜販売しようと思ってるの〜。
でもレーアちゃんの悪口を言った〜、あなたがた三人の家には売ってあ〜〜げない」
「「「…………っ!!」」」
三人の令嬢が声にならない悲鳴を上げた。
「それから〜、ベルンハルト様は王位継承権を剥奪され〜、王族から除籍され〜、牢獄に入れられたのよ〜。
ハンナさんのご実家、シフ伯爵家は取り潰し〜、ハンナ様は牢獄行き〜、ハンナ様のご両親は強制労働所に送られたわ〜。
知らなかったの〜〜?」
私の言葉に三人の令嬢は驚いた顔をしていた。
情報に疎いなんて、貴族として死んでいるのも同じだわ。
「真実の愛で駆け落ち〜?
ロマンチック〜?
とてもそうは思えないわね〜。
それともう一つ〜、ベルンハルト様とハンナさんは誰を怒らせたから〜、そんな目に合っているのでしょうか〜?」
三人の令嬢はぽかんとしていた。
「答えは〜〜カイテル公爵と公爵夫人、つまり私と旦那様で〜〜す」
そう言ってにっこりとほほ笑むと、ザイツ子爵令嬢、コルベ子爵令嬢、ザイドラー子爵令嬢の顔は真っ白になった。
「そういえば奥様、聞きましたか?
ザイツ子爵家の領地ではキングコボルトが、コルベ子爵家の領地ではキングキメラが、ザイドラー子爵家の領地ではキングトロルの個体が増えているそうですよ」
チェイはザイツ子爵令嬢、コルベ子爵令嬢、ザイドラー子爵令嬢にも聞こえるように言った。
「その領地は〜、私がモンスターの間引きしている地域ね〜〜。
これまでは〜ボランティアで〜間引きしてあげたけど〜やめるわ〜〜。
これからは自分たちでモンスターを退治してね〜〜。
私兵や冒険者を〜、各家で一万人づつ雇えば〜、なんとかなると思うわ〜〜。
レーアちゃんの悪口を言う子のお家なんて、助けてあ~〜げない」
令嬢たちの顔を見てにっこりとほほ笑むと、三人は血の気の引いた顔でカチンコチンに固まっていた。
「馬鹿な子たちよね〜。
お嫁に言ったからって〜、レーアちゃんのカイテル公爵家の縁が切れる訳じゃないのにね〜」
「お馬鹿な娘を持った家は滅びればいいでんよ」
「それもそうね〜、チェイいいこと言うわ〜」
さーて、他にもレーアちゃんの悪口を言っている家がないか調べるために、パーティ会場を巡回しなくちゃね。
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