第18話「二人で参加する初めてのパーティ」



――レーア・カイテル視点――



――四カ月後――



私とミハエル様が婚約して半年が経ちました。


公爵家のご飯が美味しかったのか、お母様がミハエル様のご飯に何か混ぜたからなのかは分かりませんが、ミハエル様の身長はすくすくと伸びています。


出会ったころ、私と同じぐらいの背丈だったミハエル様は、私の身長を追い抜き、今では私を見下ろせるほど大きくなられた。


家庭教師の元で猛勉強している甲斐があり、会話も以前より理知的なものになった。


マナーの特訓をしているからか、立ち居振る舞いが以前にくらべ格段に洗練されています。





「レーアちゃんと〜、ミハエルくんに、パーティの招待状が届いているわ〜。

パーティが開催されるのは一カ月後」


ミハエル様とのお茶会のあと、応接室に来るように言われた。


ミハエル様と共に応接室に入ると、仏頂面でミハエル様を睨むお父様と、ニコニコ笑顔で出迎えてくださるお母様がいらっしゃいました。


「ミハエルくんの教育の途中だし〜、断ろうかしら〜」


「私は行きたいです! 

ミハエル様を婚約者として紹介したいです」


パーティならミハエル様とずっと一緒にいられますし、ミハエル様とダンスも踊れます。


「ミハエルくんはどう? 

勉強が忙しいなら断ってもいいのよ〜?」


ミハエル様の手を握り、パーティに行きたいわ〜〜という念を送る。


「僕は、レーア様が行きたいとおっしゃるのなら一緒に行きたいです」


「あら〜、じゃあ決まりね〜」


ミハエル様と一緒に参加する初めてのパーティ。


気合を入れて準備しなくては!


「お母様、私ミハエル様とお揃いの衣装が着たいわ」


「あら〜、いいわね〜」


「パパもレーアちゃんとお揃いの衣装がいいな」


「お父様はお母様とお揃いの衣装を着てください」


「冷たい、レーアちゃんは冷たいよ。

ママ〜、レーアちゃんの反抗期かな?」 


「あら〜、この年頃ならこのくらいの反応は〜、普通ですよ〜」 


「レーア様、実は僕はパーティ用のジュストコールを一着しか持ってなくて……。

男爵家には新しいジュストコールを作る予算はないんです。

ですから、レーア様とお揃いの衣装は……」


ミハエル様が悲しげなお顔をなされた。


「お金の心配はいりません。

先月男爵領に出現した、キングトロルを五十、六十匹ほど倒してきたので、今懐が暖かいのです」


「えっ?

男爵家の領地にキングトロルが出現したんですか?

それをレーア様がお一人で退治されたんですか?」


「そう遠くない未来男爵家に嫁ぐ身。

婚約者の領地を守るのは当然ですわ」


私は胸を張って答えた。


「…………」


もしかしてミハエル様にドン引かれた?


キングトロルを一人で倒したなんて、はしたないと思われたかしら?


それとも、凶暴な女だと思われたかしら?


「レーア様」


ミハエル様に手を握られた。


「はい」


「お怪我はありませんでしたか?」


「はい?」


「これからは、お一人でキングトロルを退治するなんて無茶はなさらないでください」


「ミハエル様は、キングトロルを一人で倒した私が恐ろしくはありませんの?」


「いいえ、全く。

レーア様がドラゴンやキメラをお一人で倒しても、僕はレーア様を恐ろしいとは思いません」


「ミハエル様」


胸がキューーーーンと音を立てる。


「これからはレーア様の支えになれるよう、僕も剣術を習おうと思います」


「まあ、素敵。

では私が稽古を……」


「ハハハ、レーアちゃん。

剣術の稽古はわしがするよ。

なんたってわしは剣神のスキル持ちだからね」


お父様はニコニコと笑っているのに、額には無数の青筋を立てていた。


お父様の前でミハエル様とイチャイチャしたのは失敗でしたわ。


「ミハエルくん、今日からわしがビシバシ! びしばし! びっしばっし! しごくから覚悟してね」


「お父様にビシバシしごかれたらミハエル様が死んでしまいますわ」


「大丈夫です、レーア様。

僕はやります!

レーア様を守れる男になりたいんです!」


「ミハエル様……!」


私の胸がキュンキュンっ音を立てる。


「ミハエルくんが〜、死なないように〜、私がパパを監視するから大丈夫よ〜」


お母様が見張ってくれるなら、ミハエル様が命を落とすことはありませんね。


「ところでミハエル様、ダンスのレッスンは進んでいまして?」


パーティではミハエル様と三曲は踊りたいわ。


「それが……あまり。

頑張ってはいるのですが……」


「でしたら、ミハエル様のダンスのレッスンは私がします!」


「レーア様が?」


「私ダンスは得意なのです」


ダンスの連載にかこつけてミハエル様とイチャイチャできますわ。


「パパは反対!

若い男女が、密室で体をくっつけるなんて良くないよ!」


お父様が反対の声を上げた。


「なら〜、ダンスはママが教えるわ〜。

ものすっごく厳しいダンスの先生を呼んで〜、ミハエルくんをビシビシきたえるわ〜」


お母様は普段はおっとりしているが、ダンスに関しては厳しいのよね。


「ミハエル様。

剣術の特訓とダンスの練習を一緒にやるのは大変ではありませんか?

やはり次のパーティは欠席……」


「レーア様、心配して下さりありがとうございます!

でも僕は剣術とダンスの練習どちらも受けます!

公爵令嬢で完璧な淑女で高嶺の花のレーア様と結婚するには、これぐらいの試練を、難なく乗り越えられなくてはいけないんです!」


ミハエル様、婚約したばかりの頃は頼りなかったのに、こんなにご立派になられて……。


ミハエル様の凛々ししさに、見惚れてしまいました。


「分かりました。

絶対に死なないでくださいね!」


「レーア様と結婚して、子供を作って、その子が成長して結婚して子供を作るまでは死ねません!」


ミハエル様と私の子供、その子と伴侶が作った孫……素敵な響きですわ。


「パパはレーアちゃんとミハエルくんの子作りを認めないよ!」


「あら〜? 

じゃあパパは孫の顔を見れなくてもいいのね〜?」


「それはいやーー!

孫の顔は見たいーー!」


「なら〜、レーアちゃんとミハエルくんの子作りを認めてあげないとね〜。

その前に結婚が先ね〜」


お父様は、「孫の顔は見たいけど、レーアちゃんをお嫁に出すのは嫌〜〜」と呟いていた。


ミハエル様は子作りを具体的に想像してしまったようで、お顔の色が真っ赤でした。








――一カ月後――



「えっ……?

ミハエル様……ですの?」


一カ月振りにお会いしたミハエル様は、体格がしっかりとされ、強い剣士だけがまとうオーラを放っていた。


目は穏やかなのに、強者の風格を醸し出している。


「あまりにたくましくなられたので、思わず見惚れてしまいましたわ」


そう言って、ミハエル様の手を握ると、ミハエル様のお顔が朱色に染まった。


うぶなところは変わっていなくて、ほっとしました。


「レーア様に釣り合う男になりたくて、カイテル公爵との特訓に耐えました」


「何も持っていない時からミハエル様はかっこよかったですよ。

私の為に、元第一王子に立ち向かってくれたのですから」


「でもあのあと気を失ってしまいました。

僕はもっと強くなって、全ての者からレーア様を守れる男になりたいのです!」


「まあ、素敵!

頼もしいわ!」


ミハエル様に惚れ直してしまいました。


その後、私はミハエル様の瞳の色の黒のドレスを纏いました。


ミハエル様は私の瞳の色の緑のジュストコールを纏い、会場に向かう馬車に乗りました。


フランツ・クラウゼにデザインさせた、お揃いの衣装です。


ミハエル様と参加する初めてのパーティ。


今からとても楽しみです。




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