ホワイトデー、母校に帰る

川谷パルテノン

渡しそびれたマイレボリューション

 もらいそびれた春の兆し、芳しい野の香りは鼻の下を撫でていく。人通りのない田舎道を抜けて静まり返った懐かしき学舎へと至る。遠き響き、それは春休み。子供ではなくなった自分には関係のないこと。ゆえに児童とは違った道に立つ。私は校門を乗り越えた。セ○ムのアラーム鳴りにけり。構うものかと進んだ先に鍵のかかったガラス戸。ガムテを貼ってバットで殴り穴をつくってロックを外す。セ○ムのアラーム鳴りにけり。校内に侵入した私は一目散に教室を目指した。途端出会した宿直の教員。

「まあ、そうやな。それはそうですわね」

「なんだお前!」

「それはそう」

 バットで脛をどついて倒し、呻くところを脇腹から蹴り上げた。セ○ムのアラーム鳴りにけり。邪魔がなくなった私は再び教室へと向かう。あの日と変わらぬ見慣れた通路。込み上げるものがある。昔は教室に鍵なんてかかってなかった。蹴り壊す。薄汚れた床。机の落書き。私はそれらを指先で擦り物想いに浸る。チョーク片手に黒板に相合傘をしたためた。その下に名前を書く。もつれた記憶、愛ある日々。教壇から見えるかつての居場所。机の中をまさぐった。ない。

「ないないないない! なんでないのよ!」

「何やってんだ!」

「来たわね。来いやーーーッ」

 男たちに取り押さえられる。床が舐めれそうだ。ちょっと舐めちゃお。

「放せや! ワシの! ワシのチョコレート! サイトウくんに渡すはずのチョコレート!」

「何言ってんだ! 大人しくしろ!」

「放せクソが! 私のバレンタイン! 私のホワイトデー!」

「不審者を確保!」

「放せ! 放せコラァ! なんでや! なんでワシだけ! お前らクソガなあ! ほんま! ほんまボケがあ!」

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ホワイトデー、母校に帰る 川谷パルテノン @pefnk

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