第8話 すてきなしゅうまつ

 青空が目を開けると――そこは自分の部屋だった。見慣れた天井、水色のカーテン、宇宙のポスター、本棚に置かれた幼い頃から使っていた貯金箱。いつもどおりの見慣れた景色だ!

「おかえりー♪」

「え?」

 目の前では真っ黒な髪の友人が重ためのVR装置をもっている。

「あれ?どういうこと?」

「どうした?『クリア』したんだろ?」

 あれ?どういうことだ?頭が、理解が追いつかない。

「どんなもんだった?」

「だいたい3時間。思ったより早かった」

「だろ?オレの言った通り」

「もう少し謎解きを複雑にするか?」

「てかもうちょい万人向けにしたら?いくらソラのために作ったからってwヒントも判定もガバガバw」

「え?」 

 右に左に振り向いても誰もいない。ギンは?カイトは?ベニは?どこ行った?

帰ってきたのは?おれだけ?

 ベッドの上でぽかんと固まっている青空に向かって、昔からの友人が笑いかける。

「おいおい、今までVRでカイトが作った脱出ゲームやってたんだけど?覚えてる?」

「そう……だったのか?じゃあギンは?イツ兄は本当は生きてるのか!?」

「落ち着いて?作り物の世界とこんがらがってる!ちょっとカイト、リアル過ぎたんじゃない?ソラがおかしくなってる!」

「え?は?で?みんなは?助かったのか?」

「プレイしていたのはソラだけだぞ?」 

「そりゃあソラのアイディアは沢山いれてたけどさ♪脱出ゲー好きの無理オーダーに応えた甲斐があったね♪」

「え?は?なぁ!おれが脱出ゲーム好きってどういうことだ?ギンじゃなくて?」

「俺たちがさんざん90年代ゲームに付き合わされたことも忘れたのか?」

「リアル脱出ゲームもいっぱい行ったじゃん!あれ忘れたとか言ったらさすがに蹴るよ?」

  『海斗』と呼ばれた真っ黒の髪の青年が呆れている横で、もうひとりの黒髪はげらげらと笑っている!


 脱出ゲームが好きなのはおれ?得意料理がカレーだったのは誰だ?一緒にアイスを食べたのは?喧嘩できたのは?おれを育ててくれた兄貴は?

 あいつらは?どこ行ったんだ?


「ヤバいね、カイト。これ、売り込み行けるよ♪」

「悪くないな」

 揺れるカレンダーを見れば夏休みの予定や落書きとともに一緒に遊ぶ予定の友人の名前がちらほらと書かれている。そのなかで特別赤丸で囲まれた土曜日にはゲームの中で何度も呼んだ名前が一周忌という文字の横に書かれている。




 わからない。まだ実感が追い付かない。

 こいつらは誰だ?

 あれが架空の家族だって?

 なあ?「こっち」が本物じゃないってなんで言える?

 なにがホンモノなんだ?





 おれはなにが欲しかった?

 おれはなにがしたかった?

 おれはなにから逃げようとしていた?









 おれは いったい 何者(だれ)だったんだ?








END


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楽しいゲームの時間デス SOLA @solasun

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