第2話 常識なんて ぜんぶ むし
「なーー?」
ようやっと白の部屋から出られたと思ったのに。次に現れたのは壁、天井、床、家具。全てが緑の部屋だった。
「おい!見ろよ!これ!アレじゃね!?ほら!やっぱ!」
四人が緑の部屋に唖然としている横で四男は白い部屋に現れたドアを開けて「トイレがある!」と叫んでいる。
「みろよ!さっきのじゃん!」
「えぇ」
銀司も小さな洋式トイレをまじまじと見てはぶつぶつと呟いている。樹がレバーを引くとジャーゴボゴボと水流が唸った。冷たい。手が洗える。水も本物で、トイレも本当に使えるようだ。
「先ほどコーラとペプシが飲みたいと言ったら出てきた。水が欲しいといえば水が出てきた。出口が欲しいと言ったら出口が現れたな」
「『出たいと言えば出られる部屋』は斬新が過ぎますよ。出ようと努力したことが全部無駄とか鬼じゃないですか」
「ねぇねぇ?白い部屋にいれば願いが叶う、てこと?♪」
「そうなるな。叶う限界はあるようだが」
「そうなの?」
「銀司は『家に戻りたい』と言った。だけどどうだ?」
「戻れてないね?♪」
「ですが『脱出するための出口が欲しい』と言ったらもう一つの部屋と出入り口が現れました」
「俺たちは『ある程度の望みも叶うし、白い部屋から脱出してもいいが、家に帰る自由はない』状況にある」
「つまり?」
「『僕たちの主導権を握る誰かがいる』と結論に辿り着けます」
「なっるほど!さっすが理屈屋の青白コンビ!」
(褒められてるのか?)
「にしてもえらい落ち着いてるねぇ?ソラは」
青空は四人を置いて次の部屋へ足を踏み入れているので紅緒も待てよと追いかけた。
********************
「わーを」
「わぁ♪」
今度は真緑の部屋だ。天井も床も壁も緑。先ほどの部屋によく似ている。
「まぁ、さっきのよりはマシ……かな?」
「かもな」
「これも謎解き系ぽ?」
「さっきのは謎解いてねーだろw」
「ギンが斬新が過ぎるってボヤいてた」
「まぁなw『出たいと言えば出られる部屋』は新しすぎだろwフツーの脱出系ゲーム全否定とか草も生えんわw」
青空と紅緒が笑っていると、樹と海斗、銀司が部屋に入ってきた瞬間。
「あ!」
出入り口は壁と一体化した。五人が入ってきた入り口は壁に溶けたように見えない。
「うっわ!」
「マジか!!」
「ションベンしたきゃこっから出ろって?」
真緑の空間。だが今度はなにやらアイテムが沢山ある!壁にチェスト、時計、レコード、疑えばキリの無いアイテムだらけの空間は典型的な脱出ゲームの部屋だ!!
相変わらず窓もないのに部屋全体が明るいが、それ以上に気になるのは部屋の中央のテーブルの上にアイテムだ。銃が2丁、ライフル1丁、サバイバルナイフが1丁、鍵が一つ。
「なにこれバトロワ的な?」
「平成生まれのおれには伝わんないんですけど?」
青空と紅緒はなんの疑問もなく、それらをまじまじと手にとって見ているが、その横で樹と海斗が視線を交わしては頷きあっている。
「あぁ!」
「すまん」
「これはちょっと隠させてくれ」
海斗が二人から銃を取り上げ、樹は着ていたジャケットで『物騒なもん』を包むと袖口を使って風呂敷のように縛ってみせた。キュ、と固めに絞る彼の表情が涙を堪えているのを紅緒は見逃さない。
「なにそれ長男権限?いくらなんでも横暴じゃないの?」
「紅緒。兄さんの強引さにムカつくキモチもわかる。だけど今はちょっと話を聞いてくれないか」
海斗の真剣な表情に紅緒が拳の力を緩めた。
「『緑の部屋』って聞いたことがないか?」
「ない」
「『緑の部屋』なんてもちろん都市伝説だ。だから信じなくていい。むしろ信じるな!だけどおそらくこの部屋を作った主はそのインチキ情報を使って俺たちを操ろうとしているからーー」
「だからなんだよ『緑の部屋』って!」
青空が三男にむけて声を張ると、末弟が横入してきた。
「『壁や床、天井が全部緑の部屋に居ると、反対色の赤い色(血)が見たくなって自分を切り裂きだす』というデマがネットにはあるんですよ」
「なんだそれ?」
「人は知らず知らずのうちに補完(色)を求める、という心理学の話なんだがーー」
「最近じゃ色彩心理学なんかもフツーに本が出てるからな。その辺を利用した面白話のつもりだったんだろうが」
だが、緑の部屋に人数分の銃はシャレにならない。本当に血の色を視なければいけないと言われているようだ。
「いやいやw緑の部屋に閉じ込められると赤色が見たくなるから人が血を流すってwちょっと極論すぎんでしょwww」
「それが嘘か本当かなんて真実は誰にもわからない。どうでもいい。恐ろしいのは、誰かが信じた瞬間、嘘(デマ)も真(まこと)になるという事実だ」
「おれたちが殺し合いしするって?」
「少なくともそう仕向けられてはいますよね」
「……」
「ネットの情報をエビデンスなしに信用する人間がどれほどいると思う」
「緑の部屋にいたら赤色を視なければ、血を見なきゃ。誰かを殺さなきゃ。って勝手に自己暗示しだすってこと?」
「多分な」
「だから銃は隔離させてもらう。皆を信じていないわけではない。だがあんなものが目に入るだけでも辛いんだ」
声にはしないが、その場の誰もが長男の横暴を許す。
「本当の優先順位は先ほどのように部屋の出口を見つけることです。そちらを見ましょう」
「「それ」」
銀司は合理的で合理的すぎることもあるが、論点をすり替えないのがいいところだ!
「とはいえ。なんかヒントくらいはないのかねぇ?」
「おーい。この部屋から出たいんだけどー?」
青空が天井に向かって呼びかけるがなにも起こらない。ただの天井のようだ。
「やっぱなしか」
「さっきの部屋がおかしかったんですよ。前例がありません」
「あれ、脱出できる人いるかね♪」
「つーかさ?この部屋もやっぱリアルガチな脱出ゲーてことでマ?」
「おそらく。今回は色々アイテムがあります。ヒントとミスリードの両方でしょうかね」
中央には緑色のテーブルに同じ色の五脚の椅子。壁には壁掛け時計と読めないカレンダー。チェストのガラスボードにはカップがいくつか見える。明らかに怪しいヤツだらけ!
「おっしゃ!」
いかにも脱出ゲームらしいじゃないか!
カレンダーやテーブル、椅子を裏返しては脚を触ったり、引き出しをあけては何かないかと探し出す。チェストには鍵穴があったのだが最初にあった鍵はどうやてもハマらなかった。
「なんもねぇ」
「だな」
「さっきの銃は?なんか隠してあるとか?」
「銃はそれこそ殺しあうためのミスリードだと思いますが」
「同感だ」
男5人で10畳もないほどの狭い部屋にヒントもなにもあったもんじゃない!
「これ以上は無理だよ。なんもなくない?」
「あ!もしかして!」
青空がテーブルや椅子の脚が外れないかと脚の付け根を回転させようとしたが、びくともしない。ならば、と椅子を踏み台に黄色の壁掛け時計の電池も外したが、なにもない。文字盤を逆にも回してみたけれど、やはりなにも起こらない。ではカップはどうだ?まだ見逃してないか?ならばこっちは?いやいや懐中電灯が怪しい!
皆も部屋のあちこちを探すが、新しいアイテムどころかヒントが書かれたメモすらない。
「やっぱ無理じゃね?」
「厳しすぎない?フツー、ヒントとかあるよね?」
「そうなのか?」
「俺もあまりやったことがないんだ。この手のゲームが得意なのはギンだがーー」
当の銀司は皆の言葉に耳も傾けずぶつぶつと呟いている。
脱出ゲームにヒントがないわけはない。おちつけ。考えろ。前提を疑え!
「なんだ――最初からあったじゃないですか!」
「わかったのか!?」
「鍵ですよ!!おそらく最初からテーブルにあった鍵が出口へのカギなんです!!」
「はぁ?なんで?」
青空と紅緒が理解不能と首を振るが、銀司は嬉しそうにニコニコだ!
「どういうこと?」
「脱出ゲームにおいては最初から全てを信じないのがスタートです」
「だからさ?最初からあった鍵なんて一番信じねーヤツじゃん?いかにも嘘じゃん?さっきも使えんかったし!こーゆーのはとにかくヒントを手あたり次第見つけるっきゃねーんだ!順番が違ってもやり直すしかねぇんだ!なんども失敗してクリアするんだ!だろ?俺だってなんも知らねーってことはねぇぞ?」
脱出ゲームは新たなアイテムを探し、部屋中をあさり、見落としがちな細かな暗号を調べ、それからさらに細やかにちりばめられたヒントから考察を組み立るのが基本だ。だからこそそれなりに時間がかかるのも当たり前で、だからこそ楽しいと言うのもあるのだが。
「そうなのか?」
「多分。俺はあまりやったことがない」
樹も海斗も弟たちの会話に入っていけず、傍観するしかない。
「おめーがプレーする90年代鬼ゲーに付き合ってきたんだぞ?それなりに謎解き系の知識はあるっつーの」
「確かに銀司はその歳で忍耐力はついてるよねぇ。期待値が低いってゆーか。裏切られてもキレないってゆーか。」
「それなんですよ。ベニオ兄さん」
「え?オレ?」
まるでクイズ番組の案内人のような口調に他の三人の脳内でも「ジャジャン!」なんて古典的な効果音が再生された。
「兄さんが出口を必死に探して探して探しまくりました。ヒントを求めて謎解きに体力と気力を使い果たしたました。でも実は最初から脱出の鍵が目の前にあリました。どうしますか?」
「まぁブチキレるよね?」
他の三人も激しく同意、と頷いている。
「だからです」
にっこりと女子なら悲鳴をあげそうな麗しいほどの笑顔でテーブルの上の鍵をトントンと音たてて皆の注目を集めてみせた。
「大抵は『そう』なんです。ソラが言いました。『謎解き系脱出ゲームはたくさんの体力と気力、時間を使うのが当たり前』です。それがデフォルト。常識。だから皆が必死になってヒントを探します」
「うん」
「答えは考えた末にある。ヒントどこかに隠されている。まずはヒントを集めなければいけない。ヒントを集めた末に答えは導かれる。その思い込みのせいで最初からある鍵が本物だなんて思わなくなる」
「まぁ、なぁ……」
実際そうだった。青空としてはまだ信じ切れていない。
「実際はどうでしょう?この部屋には疑わしい小物がたくさんあります。ですがヒントはどこにもありません。答えが導けそうな気配もありません。当然です。答えは目の前なんですから」
「でもよぉ」
「皆、自分を信じて疑いません。いつまでもないはずのヒントを探すのは悔しいからですよ。これまでの努力が徒労になる。己の過ちを認めることができないまま間違いを続ける。典型的なコンコルド効果です」
「う〝……」
「その結果?この閉鎖された空間で気が狂います。怒りの矛先を誰かにぶつけたくなる。その結果が殺し合いじゃないですか?」
「殺し合いになるのは緑の部屋じゃなくても同じ、というわけか」
「ええ。部屋が緑色なのは有名な都市伝説を利用したのでしょう」
「なんでまた……?」
「人が人を殺すことを正当化できますから」
「「「……」」」
末弟があんまりにもあっさりと言い放ったせいで、どこか遠い国の戦争のニュースを聞いているようだ。実際、つい先ほどまでテーブルがあって、長兄が目の届かぬよう片付けたのも遠い昔の話。
殺しあいをさせられかけた。殺しあいをしていたかもしれなかった。
今、生きていること自体が全て綱渡りの結果なのだ。
「僕は殺し合いなんてしたくありません」
「おれだって!」
「では早く部屋からでましょうよ。最初から思い込みなんて壊せばいいんです。白い壁の部屋がそうだったでしょう?」
「……」
「ま、やってみましょうよ」
銀司は皆が入ってきた方の壁をジーーーーーーっと見つめ出した。しゃがんで足元から手を伸ばして届く範囲をじっくり、じっくりと。確かにここまで疑い深く部屋の壁を見た人間はいなかった。誰もが脱出のヒントはこの部屋のアイテムだと思いこんでいたから。鍵穴があるなんて誰も思っていなかった。だから。
「高さとかそんでいいの?」
「本当は椅子を使わなきゃとか」
「女性だけのグループで閉じ込められる可能性もあります。高さや力を使う必要はないと思いますよ」
「「「なるほど」」」
銀司の横で青空もはいつくばって探し出す姿を樹は嬉しそうに眺めているので。
「どしたの」
紅緒がこっそりと聞けば。
「昔は学校から『ゲームをやりすぎないように』なんてプリントをもらったものだがな」
なかなかどうして。弟たちが今、率先して前線に立っている。顔をしかめられていたゲームは役に立っているじゃないか。
「ありました!」
「うそ!」
銀司でなければ絶対見逃していたよね、な小さな穴に鍵穴をいれればーーーー!?
「入った!」
「マジか!!」
ガチャリ、と右に回せば開錠の音がして。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオゴゴゴゴ!!!!
大きな音とともに緑の壁が左に動き、先ほどの白い壁の空間につながった!!
***********************
「ふおおおおおお!!」
あちらの部屋にいたのは数十分程度だったと思うが、随分と久しぶりだ!
「イエー!」
ただ緑の部屋に行って帰ってきただけだったはずなのに!なんだこの高揚感!
皆が白の部屋に足を踏み入れ、喜びを露わに紅緒と青空がハイタッチしていた瞬間!!
白い壁には『最速クリアボーナス』という文字が写された!
「なんだこれ」
壁は触ってもただの壁。プロジェクションマッピングのように手に文字が写るわけでもない。ただでさえよくもわからない空間なのに、説明もなしメッセージを読解するには難易度が高すぎる!一昔前風に言えばkwskなんて悲鳴を上げたいところだ!
『ボーナス』の文字の横には数字が表記されているがーー報酬金なんて都合のいい展開を期待してもいいのだろうか?
(でもなんのために?)
「んだ?これ」
先ほどまで存在していなかった大きめのテレビ画面が白い壁に埋め込まれている。皆がそのモニターに注目していると、突然、赤黒い画面が点いた。
「いやあああああ!」
「あああアアアア!!」
真っ赤な部屋では五人の男女が悲鳴をあげている。
「え?」
「なにこれ」
「おいおい」
画面は二分割、四分割、九分割になり、自分達以外の五人組が映し出される。赤い部屋、緑の部屋、白い部屋にいる彼らはどれも別々のグループのようだ。男同士、女同士、男女混じった五人組に親近感が湧いてもいいはずなのに、テレビ越しの彼らに向けてどこか他人事で、冷静であろうとする自分がいる。まるでテレビ越しに見る戦争のようだ。
「なんでヨォオオオオオ!」
「いやあああああああああ!!!」
緑の部屋から銃の音が聞こえる。白い部屋では女性が壁をガリガリとこすっては血を流しながら泣いている。赤い部屋はよくわからない。体が見ようとしていない。おそらく自分達の想像しうる最悪の事態が現実化していることはわかる。
「色で気が狂うのは都市伝説じゃなかったの?」
「都市伝説だ」
「気が狂うのは閉塞感に対してだ。あくまで色じゃない」
「でもあれじゃーーまるでーー」
「赤い部屋のせいで気が狂ったみたいだな」
「あの人たちが『本当』にそうしてしまってるんですよ……」
画面越しの真っ赤な部屋なんてみているこちらの気が狂いそうだ。
色で気が狂わないとしても、交感神経の乱れによってなにかしらの変調はあるだろう。あんな部屋で正常でいられる方が狂ってる。ラブホみたい赤い部屋、男同士なら喧嘩で済むだろうがーー。
「ああ!」
緑の部屋では銃を持っていた男が背後から椅子で殴られた!女二人で同時にひとりの男を殴っている。頭を殴られて動けないのになおも足で蹴って、踏んでーー。
「なにをやったんだ」
「……そんだけのことをしたんだろうね」
無音で悲鳴すら流れない画面は本当に今、起こっている現実(リアル)?
嘘だろう?本当はあれは映画で、自分たちはドッキリのテレビに招待されていて。
それでもうじき「ドッキリでした」なんてスタッフが現れてーー
画面に映る赤い部屋では人々が吠えている。ただ見ることしかできない部屋が映されたのち、最後には画面は黒くなって消えた。
「ところでさ?この『最速クリア』ってのは?やっぱゲームクリアの速さってこと?」
「だろうな」
「ボーナスってのは?金?マネー?マニー?」
「それっぽいけどさ」
紅緒が親指と人差し指でわっかを作り嬉しそうに笑う。
壁に映し出されていた映像文字は消えてしまったが、確かに報酬金の文字の横に数字が書かれていたことは皆も覚えていた。だからおそらく『金』と解釈するのは正しい。だけどどこにも札束や硬貨はない。
「あるいは情報だったかもしれないな」
「情報?」
「今のモニターの映像そのものがボーナス、と考えてもいいんじゃないか?」
「「なるほど」」
「他にも我々のような五人グループがいることは確認できた。白と緑の壁の部屋以外に赤い部屋が存在することも知った。情報は無形財産とも受け取れる」
海斗の仮説に樹と銀司も頷いている。
「確かにオレたち以外にもこの脱出ゲームをやってる連中がいるってことはわかったさ?でも他には?オレたちにとって財産って言えるほどのメリットは?」
「もしかしたら『ボーナス=赤い部屋のステージ免除』だったかもしれませんね。」
「それはありそうだな」
銀司のひとことに全員が納得していた。今は消えたが画面越しに見た赤い部屋。倒れていた人、裸だった女、想像しうるに最悪の部屋。
だって本当に真っ赤な部屋に閉じ込められたヤツなんていない。赤は興奮の色だ。自律神経だの色彩心理学がああだこうだのはよくわからないが、頭と体がおかしくなっても不思議じゃない。尋常じゃない空間に閉じ込められて気が狂わない方が異常だ。
これからどうしよう。これからどうなるのだろう。五人が黙っていた時だった。
パパーン!!★☆★
どこかで聞いたパソコンの起動音が天井から音が降ってきた!
「びっくった!」
「なんだ!?」
『おめでとう!君たちは脱出速度が異常だった!だから赤い部屋からの脱出ゲームは免除にしたよ!』
機械の声はテレビで犯罪者の声にモザイクをかけたようななめらかに濁った音だ。
『おめでとう』がこんなにも嬉しくないなんて。むしろバカにされているとすら感じるのは卑屈すぎるだろうか?
「なぁ!なんだよこれ!ガチでリアル脱出ゲームなのか!?」
『そうなんだよ!おもしろかったぁ?って聞くまでもなかったか。すごいよねぇ?白い部屋もあんな早く出れないよ?ヘタすりゃ2日以上かかる人もいてさぁ?』
先ほどの爪から血を流して泣いていた女性が浮かび、胸が締め付けられた。
『緑の部屋もねぇ?嘘とかデマを信じて殺し合った人もいたのに、キミらぜーんぜんなんだもん!しかも鍵に気がつくの爆速すぎない?もぉ全然騙されてくれないし?仕掛けた側としてはつまんないんですけどぉ?』
「申し訳ありません。僕が優秀すぎるために」
「「「「ぶ」」」」
十四歳の弟のクソ高自己肯定感によるジョークは青空相手ならトムとジェリーのような喧嘩が始まるのが定番なのだが。敵を手玉にとる姿は見ていて気分がいい。
『まぁゲームは回数だからね。君の経験値が異常だったのかな』
「えぇ」
堂々と笑ってみせるクソガキは世間のSwitc●なんてスルーしたPCゲーム大好きマン。彼にとってはそのPCゲーム愛ごと肯定されたようで思わず不敵な笑みになるのもしょうがない。
『とはいえ【つまらない】なんて言ったのは嘘だよ。見事だった。白い部屋も、緑の部屋も爆速でクリアしたのはこのグループが最初だったからね』
「それはよかったです。ところで教えてください」
『んー?』
「ボーナスとは具体的になんのことですか?」
『ステージ免除のことだよ♪赤い部屋。要らないでしょ?』
ほ、と兄弟があからさまに安堵のため息をつくが
『ほら?ゲーム参加者は間引かなきゃじゃん?軽率にレイプしたり殺しあっちゃうような理性の無い人間はふるいにかけとかなきゃ?的な?』
「は?」
『君らはどうせ喧嘩もせず、冷静にクリアしちゃうでしょ?無駄なステージを与えないことが平等だ』
「買いかぶりすぎですよ」
『またまたぁ♪謙遜とか♪』
「それで?ボーナスとはステージ免除のことだけですか?」
『いいや?金のこともだ』
「先ほど数字が表記されましたが、あれは報酬金額だと解釈しても?」
『そうだね。この空間はちょっと変わってるんだけどさ?生きてりゃ腹が減るだろ?水と最低限の栄養は支給されるけどさ?人間あったかいもの食べたいじゃん?たまにはコーヒーも飲みたいじゃん?』
「随分と優しいですね?」
『そりゃもう♪君たちを呼んだのはこちらの都合だから?♪』
なるほど。生かさず殺さず。か。釣った魚に餌もやらない飼い殺し犯でないだけ感謝だろうか?
『それに楽しませてほしいんだ。そのために君らを呼んだんだからさ?良パフォーマンスのための厚生を与えるのはこちらの役割だろ?』
白い部屋にはいつのまにか大きめの真っ白なソファが置かれていた。ホテルにあるような巨大で座り心地もよさそうなのに、「どうぞごゆっくり」なんて歓迎には思えず、ともするといきなり襲い掛かってくる人食い箱に見えた。
幼い頃、虫籠にカマキリと一緒に閉じ込められたバッタはどんな気持ちだったのだろう。
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