エピローグ【いつか、未来】
紫音を交えた幸村家の夕食が始まる。
その前に俺は、どうしても言っておきたことがあった。
「......あのさ、いろいろとツッコミたいことがあるんだけど」
「何細かいこと気にしてんの~。男は黙って状況を受け入れるもんだぞ~」
「いや無理があるだろう! セレンさんと
四角いテーブルを囲むように四人が座っているわけだが――女性陣の服装に問題が大ありだった。
目の前のセレンさんはヴィクトリアン風、いわゆる職業としてのメイドさんが着ているような、シンプルデザインの紺と白のメイド服に身を包んでいた。
俺の隣の紫音はというと、某有名メイド喫茶チェーン店よろしく、袖とスカートが短いミニスカタイプと呼ばれるもの。
「似合っていませんか?
「光一.......」
「せっかく紫音ちゃんが家に来てくれるんだから、普通にご飯食べたって面白くないだろうよ~」
俺は光一に向けた視線史上、最大の軽蔑の眼差しを向けて訴えた。
家に帰ってきて早々、ふらっと一人で出かけたと思ったら、この養父は一体何を考えているんだ?
「お前も素直に従って着替えてんじゃないよ」
「......
とか言いつつ、言葉とは裏腹に紫音は真っ赤な顔で俯き、太ももの上に置いた拳はぷるぷると震え羞恥の波に襲われている。
こんなの紫音のおじさんにバレたら、確実に迷彩服姿でロケットランチャーでも打ち込まれるぞ。
我が家が伝説のスイーパー同士の戦いの場になるのは絶対にやめてほしい。
「それで紫音ちゃん、晴人の学校での様子はどうだい?」
光一が親らしいことを訊く。
場の空気を変な風にしている張本人が言うなよな。
「品行方正で、誰にでも優しく接しています。私も常日頃から助けられていますし」
「まぁ、紫音ちゃんは一番の友達だもんなぁ」
「義父様にもそう認知されているなんて感激です」
こいつ......なんで光一を義父さん呼びしてんだ。ていうかそもそも今日の紫音、言葉遣いおかしいんだけど。
「いい感じじゃねえか晴人!」
「うるさいよ。紫音もあまりこいつを刺激するようなことは話すな」
横目でチラと紫音にアイコンタクトを送る。
反応がない。
完全にテンパっているようだ。
「――で、二人は付き合ってるの?」
追い打ちをかける勢いで、光一は紫音にダメ押しの一言を問う。
「そそそそそそれは......」
これ以上は可哀そうだからやめてあげて!
紫音のHPはもうゼロよ!
いくらなんでも光一にしては悪乗りが過ぎる。
俺が間に入って本気で止めようした時だった。
「......け、結婚を前提におちゅきあいできたらいいなと、思っております!」
「!!!??? おまっ! ハァッ!?」
「あらまぁ!」
両親を前にした、まさかの紫音からの告白宣言。
セレンさんは口に手を当てて驚き、光一はよく言ったとばかりの腹立つほどのしてやったり顔。
言った本人も
意表をついて告られた本人はというと――状況を上手く呑み込めず、紫音と二人の両親の顔を交互に見るばかり......。
***
夕食後、俺は紫音のせいですっかり体温の上がってしまった体を冷ますべく、逃げるように近所のコンビニにアイスを買いに行こうとした。
ついでに言うと、少し静かな場所で考えたい気持ちもあったのだが。
「......晴人、私もついていっていい?」
私服姿に着替えた紫音が、俺を追って玄関までやってきた。
おそらく大胆な告白をしてしまった手前、一人になると更にあの二人から集中砲火を受けるのを見越してくっついてきたのだろう。
間違ってはいない。
だけど、少しは二人の前で突然告白された俺の身にもなってくれてもいいんんじゃないか?
「......いいけど」
なんて突き放すことを言えるわけがなく、結局言葉少なくOKを出してしまった。
夜間の住宅街は基本静まり返っているが、時折窓を開けている家の前を通ると、テレビの音らしきものが微かに聞こえてくる。
7月の夜の陰鬱な外気が体にまとわりつき、汗も地味にかいてくる。
「なんかごめんね」
紫音は言った。
「謝るのはこっちの方だ。うちのバカ親父が調子に乗り過ぎた。本当にすまん」
俺は頭を下げた。
人を傷つけない陽気さが唯一の売りのくせに、今日は久しぶりに紫音と会うからなのか
、やけに最初からテンションが高くて嫌な予感がした。
結果、羞恥と緊張で紫音に変なスイッチを入れてしまい、”あのような”宣言をしてまったわけで。
「......あのさ、いつからそう思ってたんだ?」
視線は合わさず、前を向いたまま紫音に訊ねた。
「わりと出会ってすぐの頃から」
「早いな、おい」
紫音も視線は合わさず、淡々と質問に答えた。
「好きになるのに時間なんて関係ないよ」
「そういうものか?」
「鈍感な晴人にはわからないかもね」
嫌味を言う紫音を横目で見ると、暗闇でもわかる程度に、頬を朱に染めているのが確認できる。
――俺は、紫音の気持ちを知っていた。
まさかそんな出会ったばかりの頃からとは微塵も思っていなかったが、京香さんとの一件以降、彼女の俺に対する気持ちが特別な好意であることはなんとなく理解していた。
だからといって、何かこちらからアクションを起こすには、初めての告白のトラウマが邪魔をする。
また、俺の早とちりではないのかと。
「......別に答えは急いでないから。安心して」
「いいのかよ?」
「なんか言いたいこと言ったらすっきりしちゃった。あとは人事を尽くして天命を待つのみ、かな」
「意味がわからん」
「わからなくていいよ。それにほら、晴人の大好きな継母さんがやって来たよ」
後ろを振り返った紫音の視線の先には、自転車に乗ったメイド服姿のセレンさん。
俺は驚きとあまりのシュールな絵面に呆然とする。
「やっと追いつきましたー」
「セレンさん何してんの!?」
「はい、私もお二人と一緒にアイス買いに行きたいなぁと思いまして、来ちゃいました」
いや、来ちゃいました、じゃない!
その格好で外出るとか、ご近所様に見られたら変な誤解されるのがオチなんですけど。
俺のご近所事情の心配を知る由もなく、ドヤ顔で自転車にまたがっている。
「言わなかったっけ? あとからセレンさんも来るって」
「聞いてねぇよ! お前さ、来るの知ってるならせめて着替えてくるよう言ってくれ」
「晴人さん、騒いではご近所の皆さんにご迷惑ですよ」
「そうだよ。この幸せ者のハーレム野郎」
セレンさんを注意するつもりが、逆に二人から思わぬ注意をされてしまった。
あ、一人は罵詈雑言も入ってるな。
俺の前を仲の良い姉妹のように会話をしながら歩いている女性陣。
金色の髪と赤茶色の髪。
性格も年齢も、種族さえも違う二人の女性を、どうやら俺は好きなようだ。
しかも片方は血のつながりはないとはいえ、今は俺の継母。
「――セレンさん、紫音」
二人が振り返る。
お互いの性格を現した笑みを前にすると、この恋の行方に頭を悩ませている自分が馬鹿らしくなる。
「誰が早くコンビニに着くか、競争するぞ」
いつか二人に恥じない男になるまで、もう少しだけ待っていほしい。
◇
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エルフ継母とクーデレ腐れ縁同級生がなぜか俺にかまってくる。 せんと @build2018
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