第45話【宿敵と書いて友とも言う】
ふらっと紫音さんの実家の喫茶店に行くと、今日は丁度紫音さんがお店に出ている日。
風の精霊の導きに身を任せた結果、到着した先がこちらでした。
カウンター席に通され、昼食後ということもあり、私は大好きなチョコレートパフェとホットの紅茶を注文。
この冷と暖の組み合わせが特に大好きで、仕事が早く終わった時等に立ち寄った際はほぼ確実に注文する、そんな私の一押しメニューなのに。
「セレンさん、そのパフェ......ひょっとして美味しくない?」
心配そうな面持ちで紫音さんが私の顔を覗くので、そこで自分が今どんな顔をしているのかハッとしました。
「いえ、決してそんなことはありません。クリームとチョコレートソースとシリアルの比率が相変わらず絶妙で、何杯でもおかわりしたいくらいです」
慌てて感想を口にし、カウンター内におられる紫音さんのお父様にも否定の笑顔で会釈をする。
表情にはあまり現れていませんが、気の流れからしてどうやらマスターさんの方も不安だったご様子。
私としたことが、大変申し訳ないことをしてしまいました。反省です......。
「二人のことが気になる?」
「気にならない......わけないじゃないですか」
「だよね」
小さく鼻を鳴らして、紫音さんは私の隣の席に腰かけました。
「自分の会社の人間が息子と知り合いで、しかも私と出会う前、二人はあの家で一緒に暮らしていたことがある――人生って本当に不思議な縁の連続ですね」
「悔しい?」
「別に悔しいといった感情は。私に歴史があるように、晴人さんにも京香さんにも今までいろんな歴史があったでしょう。もちろん紫音さんとマスターさんにだって」
誰かと誰かの歴史が交じり、そこから新たな歴史が始まるのがこの世界の常であり、面白い部分。頭では理解しているはずなのに。
「ただ.........
「正直でよろしい」
感の鋭い彼女に隠しても無駄だと思い、素直に本音を口にする。
紫音さんだって、私の知らない晴人さんを沢山知っている。
それは彼女が晴人さんの同級生にして昔ながらの友人であるからして、恋人だからではない。
だけど京香さんは違います。
晴人さんが京香さんに向ける眼差しは、恋愛的っぽい好意を持ったもので、突然の再会で困惑をしていても、それは明確に瞳に映し出されていて。
こんな胸が締めつけられるような、苦しい感覚に陥ることは、130年生きてきた中で初めての体験です......。
「心配しなくても、晴人は昔の自分にけじめをつけたいだけだから」
私の胸中を察するかのように、紫音さんは優しく顔を覗き込んで語りかけてくれました。
あの二人の間に何があったのかはなんとなく想像はできていても、やはり母親としては落ち着かないもので。
「――実を言うと、私も妬いてたりして」
嘆息し、紫音さんは私に背を向けて気持ちを吐露する。
背中越しに、おそらく可愛らしくはにかんでいるであろう、表情が容易に想像できます。
「京香さんと一緒に住んでいた時の晴人はさ、いつも京香さんの話しばかりしてきて、正直私ムカついてたんだよね」
「それはムカつきますね」
そういう相手の気持ちに鈍感な晴人さんらしいといえば、らしいですが。
まぁ、私だったら警告の意味を込めて風魔法の一発や二発、威嚇発射するかも。
「でしょ? 普通同級生の女子の前で大人の女性との同棲話されても困るし。空気読めっての。で、京香さんがいなくなって、落ち込んでいる晴人のことをなんとか元気になってもらおうと思って試行錯誤していく内に、気づいちゃったんだよね――自分の気持ちに」
もじもじと肩を揺らす、目の前の赤茶色の少女を無性に抱きしめてあげたい衝動に駆られましたが、ここは店内。他のお客さんだけでなく親御さんまで近くにいらっしゃるので、この場はなんとか我慢をしなければ。
「そうだったのですね」
「......このこと、晴人にはもちろん内緒にしておいて」
「もういっそ告白してみてはよろしいのでは? 私は紫音さんみたいなクーデレ女子が義理の娘になっていただけるなんて、大歓迎ですよ?」
ちらとカウンター内のマスターさんに視線を向ければ、口角を上げ、サムズアップで返してくれました。
これは相手のご両親もOKということで、外堀は完全に埋まったも同然。
「ムリムリムリ! 私から告白なんか、敗北を認めた気分で絶対嫌!」
「そんなか〇や様は告らせたいみたいなこと言ってたら、先に誰かに獲られてしまっても知りませんよ? 例えば私とか?」
「いや、母親が息子と結婚するの、こっちの世界でも法律上無理だから」
「さぁ、それはどうでしょう?」
顔をこれでもかと真っ赤にして否定する紫音さんに対し、私の中の
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