第4話【アニオタエルフに悪い者はいない?】

 夕飯時で忙しい時間だというのに、ネットで注文して30分もしないうちに家にピザが届いた。


 種類が多く、どれにしようか決めかねている彼女に対し俺は、1枚で4種類の味が楽しめる『クワトロ』を提案した。それでもその4種類を絞るのに時間がかかりそうだったので、Mサイズを3枚注文することに。まぁ、余ったら明日の朝ご飯にすればいいだけの話だし。


「これがピザ......夢にまで見たあの......」


 リビングテーブルの上に並べられた熱々のピザ達を前に、彼女は両掌りょうてのひらを頬に付けて歓喜の声を上げる。


「ヘスティアーナさん、ピザ食べたことないの?」

「はい。私の住んでいた世界にはございません。なのでアニメでピザの存在を知ってからいつかは食べたいと思っていたのですが......ようやく出会えました」


 ――ヘスティアーナさん、アニメ見るんだ。


 意外な一面に俺はふと気になったことが。

 

「そういえばヘスティアーナさんはこっちの世界にやってきてどのくらい経つの?」

「え~と、1ヶ月くらいでしょうか」


 俺の質問に返答しつつ目をうっとりさせながら鼻梁びりょうを微かにぴくぴくさせ。


「このトマトと焼けたチーズの香ばしい匂い......たまりません」


 自然と零れた言葉につい口角が上がってしまう。

 念願のピザを前にいつまでもお預けさせておくほど俺は鬼畜ではないので。

  

「それじゃ、冷めないうちに早く食べようか」

「はい」


 彼女は祈りを捧げるかの如く目を閉じ、両掌を顔の前でゆっくり合わせ、そして。


「「いただきます」」


 母子最初の共同作業? が始まった。





「――ごちそうさまでした。大変美味しゅうございました」

「それはなによりで」


 Mサイズのピザ=約6人前を俺達はあっという間に完食してしまった。

 驚いたのはセレンさんのその食べた量。

 男子高校生の俺と同じくらいの量を余裕でいき、今は一緒に注文したデザートの杏仁豆腐を相変わらず幸せな表情で食している。


 創作物上の影響等でエルフは小食のイメージを勝手に持っていたが、どうやら現実は違うらしい。


「ヘスティアーナさん、ところでさっきアニメでピザのことを知ったって言ってたけど、なんて名前のアニメ?」


 俺は食事中ずっと聞きたかったことを彼女にぶつけた。


「ラノベ原作の『異世界カフェ』というアニメです」


 ......ただタイトルだけを述べずに頭に『ラノベ原作の』を付ける時点でもうアニオタ特有のそれっぽい。


 ちなみに『異世界カフェ』という作品は俺も好きで、原作は読んだことはないが深夜に放送されていたアニメは毎週見ていた。

 エルフやドワーフ、獣人に竜人といった様々な異世界人が、日本のカフェで出されている食事に感動してとりこになる一話完結型の物語。

 去年数年ぶりにアニメの2期が放送されたので、是非この調子で続けて3期もやってほしい作品だ。

 

「ピザ以外にもクリームソーダにホットケーキ、小倉トーストやオムライス......まだまだ食べてみたい物がいっぱいあります。あとデカ盛りというのにも興味がございまして。食事だけでなくお金までいただけるなんて、幸せの極みではありませんか」


 熱量を帯びた声で饒舌じょうぜつに喋る彼女。

 会ったことないけど、日本のアニメが好きで海外からやってきた外国人ってこんな感じなのだろうか。


「カフェで良ければ今度近くのお店に連れて行ってあげるよ。小倉トーストは流石に無いだろうけど、大抵のカフェの定番メニューは揃ってるから」

「本当ですか!? 是非よろしくお願いします!」


 ピザでこれだけ喜んでくれたのだから、本物のカフェに行ったらどうなることやら。

 その反応を見るだけでも楽しいに違いない。

 これから彼女とほぼ二人きりでこの家で暮らしていくのだから、できれば良好な関係を築きたいと思う。

俺は更に彼女のテンションを上げさせるべく。


「異世界カフェ以外に何か好きな作品はあるの?」

「勿論ございます。え~とですね――」


 その後、彼女の口からは幅広いジャンルのアニメ作品の名前が飛び出し、確信した。


 ――この人、いやこのエルフ......なかなかのアニメオタクだ。

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