第3話【継母さんは清楚系エルフ】
「狭い家で申し訳ないんだけど、どうぞ」
「いえ、そんなことは――お邪魔します」
ピンクのカジュアルワンピースを着た彼女が靴を脱ぎ、しゃがんで
ナンパの魔の手から助けた彼女はエルフ。偶然にもその人は
とりあえず公園で長話もアレなので、俺は家へと案内した。
「これが日本の家屋......木の温かさを十分に活かした作りで素晴らしいですね」
どうやらヘスティアーナさんは一般的な日本の一軒家に入るのは初めてのようで、目を輝かせて中をきょろきょろと見渡し、感激の嘆息を漏らす。
エルフ達が住む異世界とはそもそも家の作りが全然違うし当然な反応か。
俺はそんな彼女を空き部屋の一つに案内した。
「ここがヘスティアーナさんの部屋ね。光一......親父からの連絡がもうちょっと早かったらしっかり掃除できたんだけど」
もともと客室として使っていた部屋ではあったが、最近は泊まりにくる来客もいなかったので、前回掃除をしたのがいつか忘れるくらい掃除をしていなかった。
なので昨日夕飯を食べたあとに慌てて大掃除をした。
「お気になさらないでください。光一様はお仕事で大変お忙しい方ですので仕方がありません。それに私のお部屋なのですから、私が綺麗にするのが道理というものです」
ゆっくり頭を左右に振り、柔らかい声で夫となった光一のフォローを入れる。
「荷物を置いたらちょっとリビングまで来てもらっていいかな? いろいろと聞きたいこともあるし。今後のことについても話したいから」
「かしこまりました」
こちらに小さくお
にしても......まさか光一の結婚相手がエルフだったとは。
仕事先のエルフの集落で出会い、交際に発展してそのままゴールインのパターンがだろうか。
あんな綺麗なエルフが俺の継母か............母親というより、少し年上の優しいお姉さんみたいな見た目と雰囲気だけど.........ていうか、ヘスティアーナさんって歳いくつだろう? あとでそれとなく訊いてみるか......。
「お待たせ致しました」
俺がリビングでコーヒーを淹れていると彼女はやってきた。
「コーヒー飲める? ダメだったら紅茶もあるけど?」
「ありがとうございます。大丈夫です。あちら側にいた頃、光一様の淹れたコーヒーをよく頂いていたので」
「え、親父のコーヒー不味くなかった!?」
「そんなことはございません。とても深みのある味わいで、私は好きでしたよ」
「深みのある味わい、ねぇ......」
光一は何処に行くにも豆を持ち歩くほどのコーヒー好きである。
コーヒー好きではあるが、あいつの淹れるコーヒーはとんでもなく苦くて飲めたものではない。あのコーヒーを超越した黒い水を俺は『ブラックホール』と命名し嫌っている。
それを好きと言えるなんて――やはりエルフは只者ではない。
「それで話というのは何でございましょうか?」
「うん。そのことなんだけど」
立ち話もなんなので、俺は彼女にリビングテーブル横のイスに座るよう促した。
彼女が座るのを待って、俺も彼女の反対側のイスに座り。
「親父とは何処で知り合ったの?」
直球で真っ先に気になる質問を投げかけた。
血のつながりは無くとも息子なんだからこのくらいは知っておくべきだ。
ましてや今日から彼女と同じ屋根の下で暮らすのだから。
「――え~とですね、光一様とは私の故郷・パラスティアでお知り合いになりまして」
「ひょっとして親父の仕事関係?」
「はい。パラスティアは長年とある魔物に悩まされていましたところを、光一様がそれを見事に解決して頂きまして」
「――で、親父に惚れて交際の後、結婚。現在に至ると」
「......その通りでございます」
乳白色の頬を朱に染め頷いた。
もっと具体的に光一との馴れ初めを聞きたかったが、いくら
とはいえ異世界で仕事をしている都合上、魔物の相手をすることは予想していたけど.........いよいよあいつがどんな仕事をしているのかわからなくなってきたな。
俺は手元のカップに入ったコーヒーを一口飲み。
「息子の俺が言うのもなんだけど、あいつかなり自由奔放な奴だよ。家には全然帰ってこない、たまに連絡くれても肝心なこと言わないではぐらかすし」
「その辺りは重々承知しております。私、待つのは得意ですから」
鼻を鳴らし、彼女もカップに入ったコーヒーに口をつける。
「――それに、私もこちらの世界でやってみたいことがございましたので......」
「やってみたいことって?」
「それはですね――」
グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
目の前の彼女のお腹の辺りから動物の
たちまち乳白色の顔が真っ赤に変化した。
「......ごめん。もう夕飯の時間だよね」
「うぅぅぅぅぅぅ、申し訳ございません......お恥ずかしい限りです......」
余程恥ずかしかったのか目を潤ませて視線を下に向け、小刻みに肩を揺らしている。
異世界の人、エルフでもこういう状態のことを「穴があったら入りたい状態」とでも言うのだろうか?
「今から作ると食べるの遅くなるから、今日は出前でいい?」
「出前ですか!? でしたら私、ピザを希望します!」
彼女がエルフである象徴の一つでもある長い耳がぴくんと動いた。そんなにピザが好きなのか。
表情も恥ずかしさでいっぱいだった表情から笑顔に。
「わかった。じゃあヘスティアーナさんが食べられそうなピザ選ぶね」
「??? 私、特に好き嫌いはございませんが」
きょとんと小首を可愛く傾げる彼女。
「いや、だってエルフは肉類は食べられないんじゃ......」
「大丈夫です! さぁ、早くメニュー表を見せてください!」
彼女は半ば俺から強引にタブレット端末を奪い取り、瞳を輝かせながら画面に映し出されたメニュー表を指でスライドさせた。
その様子が面白かったので、暫く彼女を眺めながら俺は一息ついた。
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