とんだお笑いのラブコメディー

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 「エビ、うめぇ!」

 エビフライも好きだが、こういう大きめの海老ソテーも好きだ。

 しかも、皿の上には二尾乗ってる。

 「うめぇ。」

 スーツ、汚さねぇようにしないと。




 とびっきり笑える。

 2/14は特別な日。大半の男は落ち着かなくなるし、女子も大半色めき立つ。何ならイメチェンまで起こって超笑える。

 前日までにお店のチョコの味見が出来たし、色めき立った女子の話も色々聞けて、いやぁ面白い。

 さてさてさて最後の笑いは今日この日の為に。

細工は流々後は仕掛けを御覧じろって、いくか。




 ケラケラケラ 休み時間に笑い声が聞こえる。

 「だからよ、アイツを手紙で呼び出して『ドッキリ大成功!』ってやんだよ。」

 「ソウちゃん悪趣味だよ。で、手紙は丸文字で良い?」

 「ヨッシーも乗り気かよ…ハァ、じゃぁカメラマンは俺な。」

 一つの机で集まって、窓際のとある席を見ながら三人が嗤っている。

 (あーぁ、ナンセンスだな。)


 バレンタインでよくある事

・普段積極的じゃない女子がバレンティヌスのおっちゃんに唆されて好きな男に凸る

・皮算用して、実際は貰えず、発狂した『アー!』ってなってる男が廊下に並ぶ

・女子から『ゴゴゴゴゴ』という効果音が見える

 そして

・女子のフリをした男が土佐日記風に女子のフリをして手紙を送ってドッキリ


 山岸と海馬、吉村が考えているのは選択肢4ってところだろう。

 「手紙で呼び出して、で、男が待ってて大成功ってやるか?」

 「それは面白くないよソウちゃん。待ち合わせ場所で待ってるのが男だって分かったらバレちゃうよ。」

 「どうするんだ?三好にでも頼むか?」

 「無理じゃね?アイツ顔に出るからバレる。」

 行き詰っている。


 「お前ら、ちょっと耳貸せよ。」

 「あ?何だ本田か。」「何、バラす気?」「邪魔をするなよ。」

 「ばーか、お前らの言う女子にアテがあるから話したんだよ。」

 「「「何?」」」

 一つの机に4人の高校生が所狭しと膝を突き合わせる。

 俺の言葉に三人は徐々に徐々に笑ってきて……

 「「「いーなそれ!」」」

 という事で、俺はアテ・・を呼びに行く事にした。


 ターゲットは毎回何かしら理由を付けて窓際後ろの席を陣取っている牧田。

 モテるような雰囲気はない。積極的に人と関わらない。かと言って勉強が出来たり運動が出来たりする事もない奴。

 だから狙った。

 狙われた。

 それでも狙った。


 「牧田、お前に手紙。預かってきた。」

 何食わぬ顔で前もって用意させた手紙を渡す。

 「ありがと。」

 半ばまで読んでいるであろうカバー付きの文庫本から目を離して牧田はそれを受け取った。

 本人は少しだけ意外そうに、でも、興味は無さそうに受け取ったが、周りはそうは行かない。

 バレンタイン当日に送られる手紙。しかも、封筒は明らかに女子が好みそうなデザイン。

 周りは驚いてにわかに騒ぎ出す。

 俺はその辺の追求から逃げるために外へ。

 (((ナイス!)))(まーな。)

 三人とアイコンタクトを取って教室から消える。

 その後、教室の中から牧田が出てきて、騒ぎになったらしい。


《放課後》


 手紙の内容はだいたい『放課後に中庭に来て』という内容だ。

 送り主は相田愛美。まぁ、高嶺の花だ。

 フラれた男は沢山で、勉強もスポーツも出来る社交的女子。

 牧田と真逆だ。

 だから3人は俺の提案に乗った。


 「いや無理じゃね?絶対ばれてる。」

 「心配するなよ、多分来るから。」

 「どうやって相田を説得したの?」

 「この俺、唐木田のカリスマ。冗談、ノッてくれた。それよりもプラカードは?」

 「よくこの時間で作ったよな。バッチリここにある。」

 中庭の茂みに隠れた俺達は鞄を持った相田を中庭に立たせて待っていた。

 牧田が来るか否か、それだけが問題。

 ((((来た!!))))

 牧田が現れた。

 中庭には俺達だけしかいない。

 最高のシチュ!



 「相田さん、手紙なんて珍しくないか?」

 「マキ…田君。ごめんね、急に呼び出して。

 大事な用事があったの。」

 「ふーん、それは、ドッキリのことか?」

 牧田の目が不機嫌になる。

 息を飲む声が茂みから聞こえる。

 (バレたか。ま、しゃーない。)

 同じ教室であれだけやれば誰だって気付く。


 「ドッキリ大成功ってことか?いいぜ、やってみろよ。」

 牧田の目がだんだん傾いて、怒りに染まってきてる。

 それが向いているのは相田じゃなくて、俺達の居る茂みに向けられて、だ。

 「相田まで巻き込んで、何が楽しいんだ?え?出てこいよ。」

 普段ローテンションの牧田がいつになく荒々しい。


 「どーすんだ?」「ばれてるよ。」「出るか……」

 「待て。」


 「待ってマキくん!」

 相田が俺達と牧田に割り込んだ。

 「マキくんに渡したいものがあったの!…………これ!」

 鞄から出したのは、包装された、まぁ、チョコだ。

 「マジかよ唐木田!」「唐木田マジックすげぇ。」「何時から仕込んでたの?」「別に仕込みじゃねぇよ?」

 「「「え?」」」

 「マキくんにずーっとお礼したかったの!

 勉強とか運動とか、マキくんが教えてくれたから。

 だから、これ!」

 牧田が真顔になった。

 「相田、やらされてないよな?断れなかったとか、脅されたんじゃないよな?大丈夫か?」

 真顔というか、心配とか慈愛とか、その辺?

 「私がマキくんに渡したいの!唐木田君達には手伝って、貰ったの!」

 裏返る相田の声がマジトーンなのに気付いて3人が宇宙猫みたいな顔になる。

 「マキくん、ずっと好きでした!私と付き合ってください!」

 3人と牧田が驚いていた。



 《バレンタイン前》

「マキくんに、チョコを渡したい」

          「もう告白しろよ定期」

「手伝って下さい」

           「貸しにしてやる。」



 ま、そんなこんなで、相田の頼みでこの俺唐木田が仕込みましたとさ。

 そうして今、俺は海老を食べている。

 スーツを着て、白いドレスの相田と燕尾の牧田を見ながら食べている。

 あの時の貸しは、一尾多い海老だった。

 「マジで、笑える!」

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とんだお笑いのラブコメディー 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika

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