第16話



「……俺こっちだから」


分かれ道に差し掛かり、龍之介が足を止めた。


「はい、お疲れ様でした。次の件はまた後日学校で話しますね」


「……いや、だからやんねーって。正直、お前のことは嫌いじゃねーし、世話になったから協力してやりたいけど、やっぱ俺には無理だ……」



そう。確かに悪い気はしなかった。でもやっぱり怖いものは怖い。


「……そうですか。残念ですが、無理強いは出来ませんね」


龍之介の本気が伝わったのか、それまでの問答が嘘のように流風はあっさり引き下がった。

もうちょっと押されると思ったのに拍子抜けした龍之介は、勝手だがなんとなく寂しいような、もうちょっと押してくれたらオッケーを出しても良いような気もしていたのだ。


でも、こうなってしまっては引っ込みがつかない。

 


「……じ、じゃあな……」


「龍之介君、ひとつだけ良いですか?」


帰ろうとする龍之介を流風が引き留める。

何を言い出すんだろうか。

少し引き留められる事を期待して流風を見る。


「……何?」


「悪くなんてありませんでしたよ」


「へ?」


「嬉しかったです。あの時、君が俺の名を呼んでくれて。

俺を、頼ってくれて」


「……」


「では」



……


………



それは、龍之介が期待してた言葉ではなかった。


でも、龍之介を動かすには十分な言葉だった。



「………西園寺ッ!」


(ああ、なんで俺は引き止めちまったんだ……!)


流風が振り返る。


「あのさ、やっぱさ、俺……!」



朝日を背に受けながら、なんだか柄にもない事を言ってしまうような、そんな予感がしていた。





end.

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イケメンヤンキーな鬼塚君は幽霊が〇〇! @mizuki321

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