第13話




校庭に飛び出すと、辺りは真っ暗だった。


紫と黒をドロドロに煮詰めたような空。

この場所がいつもと違う事に嫌でも気付く。


月明かりなどはなかった。

校庭の白いライトだけが運動場を所々照らしている。


その一箇所にソレはあった。


一つの明かりの真下。


遠くてわかりにくいが、人影と土が大きく円状に掘られてるのが目に入った。



(あった、アレが封印の式だ!)



「西園寺ッ……!」



名前を呼んで、人影目掛けて走る。


ダダダダダッ!!


「やった……?!」


走って式を踏んだと思った瞬間、何かにつまづき、勢いよく転んでしまう。


「いっっ!! ヤベッ……!」


すぐさま体制を起こし、後ろを振り向くがまだ来てない。


(良かった……今のうちに……?!)


龍之介が急いで立ち上がろうとすると、何故か立てない。


つまづいたのは女の子の幽霊の頭だった。


地面から何本も手が生えてきて、龍之介の足を掴む。


「……なっ!!!?」


「オ、オ、オ、オニ、ヅカ君、ツカマエタ!

ツカマエタ! ツツツツツカマエタ!!!」


「……ッ!!! い、いやだっ、は、はなせ!!! あと少しなのに……!!!」


「ズット、イッショ……ミンナ……イッショ……」


手が地中に引き込むように龍之介の足や腰に絡みつく。


「……うっ、ぐっ、ぁ……くそッ、はなせっ……!」


式はもう目の前なのに手を伸ばしても、あと一歩届かない。爪がガリガリと地面を引っ掻く。絡み付いた手は龍之介をもう半分くらい地中に引っ張り込んでいた。


(西園寺……何でいない?! もしや、間に合わなかったのか……?!)


(くそっ、俺のせいで……)


「さ、さいおん……ぐっ?!」



伸びてきた手が口を塞ぐ。

なんとかして声を出そうとするが、開くと余計に口の中に指が入ってくる。



「む……ぅぐっ……ひゃひ、ほん……ひ」



声にならない声が情けなくて、涙が浮かんでくる。こんな姿誰にも見せられたもんじゃない。


情け無い。


本当に、情け無くて、それでいてやっぱり怖い。


もうダメなのかもしれない。



(そもそも、俺は強くなんてなかったんだ)



頼りにされるのは嬉しかったけど、本当は苦しくもあった。



(本当は俺は弱いやつなんだ)



でも弱くいることが許されなかった。


男だから。

長男だから。

見た目が強そうだから。


怖いと言う言葉を飲み込むたびに、どんどん恐怖は増していった。


本当は怖いものは怖いって言いたかった。

誰かに助けてもらいたかった。


でも誰を呼んだら良いかなんてわからなくて。


なんて言ったら良いかもわからなくて。


……そもそも誰の事も呼べる気がしなくて。



(ああ、俺だって、独りぼっちだったんだな……)


深海に沈むように自分の思考が落ちていく感覚がする。


意識を手放しそうになった瞬間だった。

胸ポケットに入れていたお札が落ちているのが目に入る。


(アレは……)




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