第12話



(やべえ……嫌なこと思い出しちまった…)


トイレのドアの前でもう一度気持ちを落ち着かせる。


ココを出たら、もう戻れない。

でもいつまでもいる訳にもいかない。

何より、コイツを助けなければ。


こんなこと思い出せるなんて余裕なんだろうか? 感情が一周してしまったのか、ちっとも面白くないのに口の端が上がる。ランナーズハイっていうヤツなのかもしれない。まだ走ってないけど。


息を大きく吸って吐く。



「準備は良いですか? 反対側に走って、俺が式を描く時間を稼いでくださいね」


「ああ、わかってるよ」


「……開けます!」


流風と一緒にトイレから飛び出す。

そして叫ぶ。



「俺が!! 鬼塚龍之介だー!!!!」



自分の中の恐怖をかき消すように大声で叫んだ。来てほしくない相手を呼ぶために。


(……来てる! 近くにいる!)


足音なんかないけど、感覚がある。

逃げたいけど、いきなり逃げては誘導出来ない。姿を見せてから、一拍置いて、全速力で逃げなけれ……


「オニヅカクンンンンンンンンンん!!!!、ミツケタ! ミツケター! ミツケター!!!!!」


「ぅおわあぁあああぁあ!!!!!!!」


一拍置くことなく弾かれるように龍之介が走り出す。目にも止まらぬ後ろ姿を見送ると、流風も反対側に駆けていく。


「グッドラックです、鬼塚君」









階段を上り、廊下を走り、階段を降りる。


走る。


走る。


全速力で走る。


想像していたよりも女の子の幽霊は脚が遅かった。少し安心して後ろをチラッと見ると、第二形態なのか首と手を伸ばしながら、追いかけて来ていた。



「オニ、オニ、オニヅカくん、ミツケタミツケター!!!!」


「ぅおわぁああぁあぁあああぁああぁああ!!!!!!!」



少しでも気を抜くと足がもつれそうだった。



(……でも、イケる!!)


時間は十分取った。


(あとは、運動場まで走るだけだ……!)


震える足を誤魔化しながら、走った。





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