第12話
★
(やべえ……嫌なこと思い出しちまった…)
トイレのドアの前でもう一度気持ちを落ち着かせる。
ココを出たら、もう戻れない。
でもいつまでもいる訳にもいかない。
何より、コイツを助けなければ。
こんなこと思い出せるなんて余裕なんだろうか? 感情が一周してしまったのか、ちっとも面白くないのに口の端が上がる。ランナーズハイっていうヤツなのかもしれない。まだ走ってないけど。
息を大きく吸って吐く。
「準備は良いですか? 反対側に走って、俺が式を描く時間を稼いでくださいね」
「ああ、わかってるよ」
「……開けます!」
流風と一緒にトイレから飛び出す。
そして叫ぶ。
「俺が!! 鬼塚龍之介だー!!!!」
自分の中の恐怖をかき消すように大声で叫んだ。来てほしくない相手を呼ぶために。
(……来てる! 近くにいる!)
足音なんかないけど、感覚がある。
逃げたいけど、いきなり逃げては誘導出来ない。姿を見せてから、一拍置いて、全速力で逃げなけれ……
「オニヅカクンンンンンンンンンん!!!!、ミツケタ! ミツケター! ミツケター!!!!!」
「ぅおわあぁあああぁあ!!!!!!!」
一拍置くことなく弾かれるように龍之介が走り出す。目にも止まらぬ後ろ姿を見送ると、流風も反対側に駆けていく。
「グッドラックです、鬼塚君」
★
階段を上り、廊下を走り、階段を降りる。
走る。
走る。
全速力で走る。
想像していたよりも女の子の幽霊は脚が遅かった。少し安心して後ろをチラッと見ると、第二形態なのか首と手を伸ばしながら、追いかけて来ていた。
「オニ、オニ、オニヅカくん、ミツケタミツケター!!!!」
「ぅおわぁああぁあぁあああぁああぁああ!!!!!!!」
少しでも気を抜くと足がもつれそうだった。
(……でも、イケる!!)
時間は十分取った。
(あとは、運動場まで走るだけだ……!)
震える足を誤魔化しながら、走った。
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