第10話



どれくらいそうしていただろうか。


10分も経ってないような気もするし、1時間くらい経った気もする。


(……よくよく考えたら男の胸に顔を埋めるって何かやべぇよな)



「……なぁテメェ、じゃねぇ、えっと、そうだ、西園寺……」



初めて名前を呼んだ。

なんというか、そう呼んだ方が良い気がした。龍之介の中で、少しだけ流風を認めても良いような気がしたのかもしれない。


でも龍之介はこの時のことを後でしぬほど後悔する事になるとは、この時は思っていなかった。


名前を呼んで、顔を上げ。

目に飛び込んできたのは、あ、というポカンとした流風の顔。


そしてそれはまさか横にいた。


流風の顔の真横。


逆さまの、女の子の顔。


目と口の部分がポッカリと空洞になっているのに満面の笑みだとわかる。



(廃校から、俺に手を振っていたヤツだ……!)


恐怖で叫び声すら上がらない龍之介を横目に

、トイレの上の空いた部分から垂れ下がってる長い首が喜ぶように激しく左右に揺れ出す。



「さ、い、おんじ、さいおんじ、さいおんじくん! みつけた! みつけた! みつけた!!」







ぎ、


ぎゃあぁああぁあぁー!!!!!


と、叫びそうになるのを察した流風がパッと龍之介の口を手で塞ぐ。


女の子の幽霊はすぐ横にいる龍之介には何故か気付いた様子はない。


そして


『あとひとり……あ、とひとーりー』


「ッ……」


ボソッと呟きながら、長い舌を伸ばし流風の頬をベロリと舐め、スルスルと首を戻す。


そして首が上まで戻った瞬間消え、張り詰めたような空気も消えた。





ッダン!!!


トイレのドアから勢いよく龍之介は飛び出した。


「困ったことになりましt…」


「ぁああぁああ!!!!!!」



叫びながらゴシゴシと流風の顔を巻いてもらったハンカチで拭く。


限界だった。

キャパシティオーバーもいい所だった。



「ぶぐっ、あ、どうも、お気遣いなく」


「なんっなんっ、いまっ、なめっ、のびっ、……?!」


「……落ち着いてください。君の言いたい事は、なんとなくわかりますが」



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