第7話



「ねぇ、ちょっと待ってくださいよ。何で急に帰るんですか? 何か怒ってませんか? 」


龍之介が廊下を足速に歩いてく。その後ろを追いかけるように流風が小走りで追いかける。


「俺はっ、幽霊共を誘き寄せる為の餌なんだろ? だったら役目は果たしたんだからさっさと帰らせてもらう!」



(ったく、喧嘩の助っ人して欲しいとか守ってほしいとか、そういう事だと思ったら、言うに事欠いて餌だと?!)


(こっちは一応てめぇに何かあったらいけねーと思って怖い思いしながらも、一緒にいてやったって言うのに!!)


(いや勿論ンな事頼まれてねぇけど……! あの野郎、しかも俺が怖がりで先に言ったら一緒に来ないか、来ても逃げそうだから、あえて黙ってここまで連れて来たとか言いやがって……!)


なかばちょっと当たってただけに龍之介は腹が立った。でも自身のプライドにかけて義理を破るような真似だけはしないはずだ、多分。



「あのっ、君は幽霊や妖達にとって、ご馳走だと言ったのが気に障ったんですか? でも不味いより美味しい方が良くないですか?」


「……(イラッ)」


嫌な方向に天然を発揮する流風にさらにイライラが増していく。


「着いてくんな! 義理は果たしただろ!」


「ええ……そんな、義理って、警察への口聞きと廃校に一回着いてくる事が釣り合い取れると思ってるんですか?」


カチン。


説明するまでも無くイラッときた。



「あぁ?! そもそも! 俺が頼んだ事じゃねーだろがッ! つーか口聞きだって、家の力のくせに俺に命令すんじゃねーよ!」


「……!」


バッと振り返り、流風の胸倉を掴む。

流風が一瞬目を丸くするのがわかった。


「だいたいな、そもそも俺は金持ちが嫌いなんだよ。身勝手で、なんでも自分の思い通りになると思ってやがる……」


「……なんか私怨が入ってませんか?」


胸倉を掴まれてるというのにいつもの調子で流風が答える。どうやら中々に肝が据わってるらしい。

が、その態度が逆に龍之介の鼻についた。



「チッ、うるせぇな! とにかく俺はかえr……」



ドンッ


その時、廊下の曲がり角に差し掛かった時だった。


誰かとぶつかった。




「……あーコレ、ビンゴじゃね? ねーピンクちゃーん!」


ぶつかったのは190はゆうにあるであろう、耳にピアスが空きまくりの青髪の青年だった。制服は黒のシャツに銀のライン……。


(うわっ、黒銀のヤンキーじゃねーか! くそっ、警戒してた筈なのに幽霊とコイツに気を取られて全然気づかなかった……)


「また会ったな、彗星の龍之介!」


後ろからピンク髪の同じく黒銀のヤンキーが得意げに顔を出す。


「……! お前は、変態ピンク野郎!!」


まさに龍之介がココにくる原因となった男だ。


「ぁあ?!! 誰が変態だてめぇ!!」


「おや、君のお友達ですか?」


「バカ! ンな訳ねーだろ! お前が俺助ける為に警察に口聞きした相手だよ!」


「ああ、あの変態の君!」


ポンと流風が手を叩く。


「ウケるー変態の君だってー」


青髪の青年が堪えきれない様子でくつくつと笑う。


「おいテメエ笑ってんじゃねぇ! コホン、龍之介ぇ、テメエきたねー手使って無罪になったみたいだけどよ、この俺をコケにしといて、このままで済むなんて思ってねぇよなぁ?」


「ハッ、きたねーのはテメエの性根だろうが。正攻法じゃ女に振り向いてもらえねー変態野郎が俺をどうするって?」


「変態変態言うんじゃねー!!! おい、コイツらやっちまうぞ!」


「うぃうぃー」


「ハッ、てめぇら2人だけで俺に敵うとでも思……」


さっきまで恐怖でカッカしていた龍之介が、水を得た魚のように生き生きとしながら、指を鳴らす。


龍之介は思った。


(イケる。こんなタッパがあるだけの男2人、足手纏いがいたって瞬殺してやる)


まさにそう思った時だった。



「ピンクちゃん見つけたー?」


「何だ? もうはじまってんのか?」


わらわらと武器を手にした黒銀の面々が後ろから出てくる。



「……1、2、3、4、5人いますね」


流風が呑気にカウントする。


龍之介は思った。


(ヤバい。流石にヤバい。武器を手にしたヤンキー5人対丸腰の俺アンドお荷物(流風))




「……ッくそっ!!」


バキッ!!


校舎の木板の廊下を勢いよくわざと踏み抜く。一瞬怯んだ黒銀の奴らの隙を見逃さなかった。


「うわっ、なんですか?!」


「?! 待てこのヤロー!!」



流風を小脇に抱えて龍之介は全速力で走った。







「君っ、どこにっ、行くつもりですか?」


「うるせぇ黙ってろ、舌噛むぞ!」


龍之介が階段を飛ぶように降りて廊下を走る。


(確か外から見た時にもう一つ土間があったはず)


(俺達がが入ってきた方からは黒銀の奴らがいるかもしれねぇから、遠回りだがそっちに行った方が良いな……)






「っ?! なんだこれ開かねえぞ?!」


たどり着いたもう一つの土間は木板で開かないように打ち付けられていた。


「廃校ですからね。不法侵入されないよう対策してるんですよ〜」


小脇に抱えられたままいつもの調子で流風が呟く。


「お前知ってたんなら早く言えよ! つーか本当に呑気だな?!」



ドタドタドタ



「待てコラクソ野郎ー!!」


足音と共に黒銀の奴らの怒鳴り声が聞こえてくる。すぐ後ろに迫っていた。


「やべぇ逃げ場ねぇ、ぞ……?!」


「こっちです」


流風が龍之介の手を引っ張った。




.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る