第6話





校舎の中は見た目通りそれほど汚れてはいなかった。

ただ人が住まないとこうなるのか、という見本のように埃っぽい。


建物自体は朽ちていないが、木造の床が歩くたびにギシギシと音を立てた。


階段を確かめるように登っていく流風の後を着いていく。



「ああ、良かった。意外と綺麗ですね」


「……あ? ああ」



気もそぞろで答える龍之介。


(さっきから視線と寒気がする……)


ここに来た目的も聞けぬまま勢いで着いてきてしまった事を今更だが龍之介は後悔していた。


(色々確認してから着いてこりゃ良かった……)


なんかもう1人じゃ後戻り出来る気がしない。幽霊云々もそうだが、流風が黒銀の連中と鉢合わせする事を龍之介は心配していた。


(今はいなくても、黒銀の奴らが来ないとも言いきれないしな……もしコイツが鉢合わせでもしたら、1人で勝てるわけねーし)


(どうする? 引きずってでも帰るか? いやでもビビってるって思われたら俺の沽券にかかわるし、何よりコイツには一応借りが……!)


1人悶々と頭を抱える龍之介。


その時だった。



『ふふふ』


『あはははは』


『クスクスクスクス』




何処からか幼い子どもの笑い声が聞こえた。



「?! いっ、今!」


「ああ、やはり結構いますね、なるほど怪談は本当だったみたいだ」


「本当って、あの佐藤が話してた隠れ鬼の幽霊か?!」


「ええ、ある方から祓ってほしいと依頼がありましてね。前回一人で調査に来た時は何も出て来ず、心霊の類ではないのかとも思いましたが……」


流風が辺りを見回す。



『クスクスクスクス』



一際大きくなった笑い声に後ろを振り向くと、廊下の隅に一瞬だけ、子どもの走る背が見えた。


「……ッ!」


思わず隣にいた流風の肩を掴む龍之介。



「良かった、本物だったようです」


ね? と、ニコニコしながら流風が去っていった子どもの方を指さす。

その呑気過ぎる態度に龍之介の中で何かの限界が訪れた。



「ね? じゃねぇ! よ!!!!! お前霊能者なんだろ?! 払うの頼まれて来たのはわかったけど、何で俺連れて来たんだ!? まさか俺に幽霊と戦えって言うのか?!」


「……はい?」


龍之介の勢いに流風がキョトンとする。

その顔を見て、龍之介はハッと我に帰った。


「べっ、別に怖いとかじゃねぇぞ!!!?」


取り繕うように言う龍之介を大して気にする様子もない流風。


「あははは、ヤダな。君に幽霊と戦ってもらおうだなんて思ってませんよ」


そんな事したら俺の意味ないじゃないですか、と流風が笑う。

そうか、良かったと、ホッとする龍之介だがそれはそれで疑問が生まれた。


「じゃあ何だよ……?」


「うーん……もう言っても良いか。実はですね」


「……おう」


「……君には幽霊達の餌になってもらいたかったんです」











「…………は?」


今度は龍之介がポカンとする番だった。








流風達が学校に入ったその10分後。



旧南小学校の前にカラフルな髪色の所謂ヤンキー達がわらわらと集まっていた。


「おい、彗星高の龍之介が来たってのは本当だろうな?」


ピンク髪をした黒銀の生徒が校門の前で辺りを見張ってた青髪の少年に声をかける。


「マジマジ! なんかー女みたいな奴と入ってたぜー」


「へぇ、良い御身分だなぁ」


「じゃあ、ま、ピンクちゃんのお礼参りと行っちゃいますか〜」




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