第5話



「取り消し?」


「おお、この西園寺のお陰やで」



清洲先生がポンと流風の肩を叩く。


なんでも彼も名家のボンボンらしく、その筋には顔が効くらしい。それを生かし、先方とかけあい、話をつけてくれたんだとか……。



「校長先生も喜んどったわ〜これでゴルフ会欠席せんと済むと」


あのオッサン自分のことかよ! と龍之介は思った。が、それよりももっと気になることがある。



「……いや助かったけど、何でその西園寺? は俺を助けてくれたんだ?」



転校生だし、関わりもなかったのでお互いにろくに知らないはずだけど。


直接はなんだか聞きにくくて、清洲先生に小声で聞いてみる。



「ああ、なんやお前に助けてもらいたい事があるらしいで」


「……何を?」


変な事じゃないだろうな、と清洲先生に目で訴えかけると清洲先生が朗らかに笑った。



「なんや詳しくは後で自分で言いたいらしいで。まあお前を指名するくらいやから、アウトローな案件ちゃう?」


「アウトローねぇ……」


ほれ、見た目あんなんやし、金持ち特有の天然気味な性格っぽいでな。ま、色々守ったってや。と言われて改めて流風を見る。


確かに男子の制服を着てなければ女子と見間違いそうな見た目をしている。


サラサラの茶髪のショートヘアに優しげに少し垂れた目元。風が強く吹いたら飛んでいきそうな感じだ。


纏う空気もぼんやりというか、ほのぼとしている。


「ま、詳しくはあとで本人から聞きや。友達の1人もおらんと、流石に寂しいやろ?」


余計なお世話だと黙っていると、話をまとめるように清洲先生が手をパンパンと叩いた。


「まあま! それにしても良かったな〜!

俺のクラスから退学する生徒なんて出したら評価も下がりそうやし! 俺からも感謝やで」


「おや、そういうものですか?」


「そらそうやろー西園寺は天然やねぇ」


「恐縮です」


「そういうとこやで〜ははははは!」


「? はははははは」


「……」


なんだこの会話と龍之介は思った。





「それで? なんだよ助けて欲しいことって?」



学校から出て2人きりになったところで聞いてみる。

流風はスマホの地図アプリを開きながらキョロキョロとしている。



「とりあえず、何も言わず俺に着いてきてください、お願いします」



ペコリと頭を下げられ、疑問に思いつつも着いていく。



(あんま詳しく言えねー感じか……? 誰かに口止め、呼び出し、されてるとか?)


(……おもしれぇ、どういう思惑だろうが、何人いようが返り討ちにしてやる)


龍之介がメラメラと謎の闘志を燃やしていると、流風があ、と何かを思い出したように振り返った。



「そういえば君、校長室のアレ、視えてましたよね?」


「足か?! お、お前も視えてたのか?!って、あ、今のは違う! 別に怖いとか、信じてるとかじゃなくてだな……!」


隠していた所謂霊感を自ら暴露してしまい慌てる龍之介。が、流風は何事も無かったかのように構わず話す。


「信じるも信じないも幽霊はいますよ」


キッパリと言い切る姿に一瞬呆気に取られた。


「見る能力の無い方がマジョリティですから、そういう話になりがちですがね。

……ああ、申し遅れましたが、俺は西園寺流風。妖祓いの名家、西園寺の3代目(仮)です」


「あ、妖祓い?!」


「ああ、妖というのは幽霊とかお化けとか妖怪の総称を呼んでいます」


「いや驚いたのはそこじゃねーけど……」



うさんくせえ! 第一声で龍之介は思った。


ただでさえインチキが多いオカルト業界。それの名家だなんて俄には信じられない……。


(ていうか妖祓いの名家って事は代々仕事にしてきた訳だよな……そんなんあんのか……? でも警察に口聞き出来る位なんだから、名家ってのも嘘ではないよな……)


悶々と考えていると、急に足を止めた流風にぶつかりそうになる。


「っと、着きました」


「ココは……」


着いたのは件の廃校・旧南小学校だった。


夕方とはいえ、夏で明るいし、セミは鳴いてるのに、空間が切り取られたようにそこだけ静かだった。


黒鋼高校の縄張りだけど、学校は見た感じ荒れてる感じもない。というか人の気配を感じない。どうやら黒銀の奴らと喧嘩というパターンではないようだ。



(でも、なんか……)



嫌な感じがする。



(……ってちょっと待てよ、あいつは妖祓いの名家で、この心霊スポットに来たっつー事は……もしや、俺に戦わせようとしてんのって、人間じゃなくて幽霊ってことか?!)



冗談じゃねぇ! と辺りを見回すと、目の前にいたはずの流風が校舎に入ってくのが見えた。



「?! ちょ、おい! 待てよ! あぶねーだろ1人で先に行くな!」




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