第4話
★
校長室で待つ龍之介。
(こんな事で退学になったら……)
家族の顔が浮かぶ。
出稼ぎだかなんだかで年1位しか家に帰ってこない父親。
それを健気に待つ、か弱い母親。
優秀なのに家の為に進学を諦めようとしている弟。
『兄貴、あんまり無理しないでよ。バイトの掛け持ちとかキツいじゃん』
『これくらい余裕だっての、変な心配すんな。それよりお前は頭が取り柄なんだからさっさと勉強に戻れ』
『でも、』
『そうよ、悠ちゃん。あなたはお勉強頑張りなさい』
『お兄ちゃんは頼りになるんだから』
(……)
思い出した言葉がやけに重くて、鉛を飲み込んだ気分になる。
「くそっ何もかもあの変態ピンクヤローのせいだ!」
ガッとその辺の椅子を蹴り上げる。
「っあだッ!!!」
ら、足の小指を打った。スニーカーの上からだが、割と痛い。思わず足を押さえてかがむ。
「っつー……クソっ、俺が何したってんだ……」(罪のない椅子の蹴り上げ)
と、不意に視界にゆらゆらと揺れてる何かが目に入った。
カーテンだ。
校長先生の机の後ろにある、日当たりが良すぎて、日を全然遮きれてない、透けるような白のカーテン。
それが風もないのに波打つように揺れている。
もちろん窓など開いていない。
揺れてるカーテンの下、足が出ていた。
一見すると裸足でカーテンの中から窓の外を見てる感じだ。
でも、カーテン越しからは誰も見えないし、あるはずの膨らみもない。
「ッ、」
さっきまでの鬱屈とした気分は吹っ飛んでいった。(悪い意味で)
(お、おおおおおお俺は何も見てない! 見てないぞ……!)
そう、実はこの学校、昔からお化け学校と名高い学校なのだ。
そして龍之介がさっさと足早に学校を後にする理由でもある。
もちろんバイトとか、誰かに用事を頼まれて、とかもあるが、一番の理由は霊感が強く霊が寄ってきやすいので、なるべく明るい時間に自然な理由で学校を離れたかったのだ。
大の男が幽霊が怖ないなんて情け無ぇ……! と過去にも何度か向き合おうとした事もあったのだが、1人では怖くてどうにもならない。
しかし声を大にして恐怖を訴える事は、自身のプライドが許さないし、周りもそんな自分は見たくないだろう。
大昔に母に怖い、とこぼした事もあったりしたが、男の子なのに、とガッカリされた事もあって、それ以来、他人に悟られぬよう怖がりな自分は封印して生きてきたのだ。
「……」
そう。そうしたはずなのだが、いざ目にすると恐怖で身体が固まってしまう。
しかもなんか窓の外を向いていた足の向きがこっちを向いている。
(?! な、なななな……!)
その足が一歩こっちに踏み出そうとした瞬間だった。
ガチャ
「うぉわぁああッ!!!」
ガッ!!
校長室のドアがいきなり開いたのに驚き、またしても足の小指をぶつける。
「いでーッ!!!!」
「……何を一人で騒いどるんや」
入ってきたのは清洲先生と1人の男子生徒……西園寺流風だ。
「いやッ、足ガッ、」
「足ぃ? あー小指打ったんかぁ〜痛いよなぁ〜」
そうだけど、そうじゃない。
龍之介が後ろを振り返ると足は消えていた。
カーテンも揺れてた気配などまるで感じさせない。
横にいた流風と目が合う。ニコリと微笑まれた。
(……か細い……男? 誰だコイツ)
これが龍之介と流風が初めてお互いを認識した瞬間だった。
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