第4話




校長室で待つ龍之介。


(こんな事で退学になったら……)


家族の顔が浮かぶ。

出稼ぎだかなんだかで年1位しか家に帰ってこない父親。

それを健気に待つ、か弱い母親。

優秀なのに家の為に進学を諦めようとしている弟。


『兄貴、あんまり無理しないでよ。バイトの掛け持ちとかキツいじゃん』

『これくらい余裕だっての、変な心配すんな。それよりお前は頭が取り柄なんだからさっさと勉強に戻れ』

『でも、』

『そうよ、悠ちゃん。あなたはお勉強頑張りなさい』








『お兄ちゃんは頼りになるんだから』










(……)


思い出した言葉がやけに重くて、鉛を飲み込んだ気分になる。



「くそっ何もかもあの変態ピンクヤローのせいだ!」


ガッとその辺の椅子を蹴り上げる。


「っあだッ!!!」


ら、足の小指を打った。スニーカーの上からだが、割と痛い。思わず足を押さえてかがむ。


「っつー……クソっ、俺が何したってんだ……」(罪のない椅子の蹴り上げ)


と、不意に視界にゆらゆらと揺れてる何かが目に入った。


カーテンだ。

校長先生の机の後ろにある、日当たりが良すぎて、日を全然遮きれてない、透けるような白のカーテン。

それが風もないのに波打つように揺れている。

もちろん窓など開いていない。



揺れてるカーテンの下、足が出ていた。



一見すると裸足でカーテンの中から窓の外を見てる感じだ。

でも、カーテン越しからは誰も見えないし、あるはずの膨らみもない。


「ッ、」


さっきまでの鬱屈とした気分は吹っ飛んでいった。(悪い意味で)



(お、おおおおおお俺は何も見てない! 見てないぞ……!)



そう、実はこの学校、昔からお化け学校と名高い学校なのだ。


そして龍之介がさっさと足早に学校を後にする理由でもある。

もちろんバイトとか、誰かに用事を頼まれて、とかもあるが、一番の理由は霊感が強く霊が寄ってきやすいので、なるべく明るい時間に自然な理由で学校を離れたかったのだ。


大の男が幽霊が怖ないなんて情け無ぇ……! と過去にも何度か向き合おうとした事もあったのだが、1人では怖くてどうにもならない。


しかし声を大にして恐怖を訴える事は、自身のプライドが許さないし、周りもそんな自分は見たくないだろう。


大昔に母に怖い、とこぼした事もあったりしたが、男の子なのに、とガッカリされた事もあって、それ以来、他人に悟られぬよう怖がりな自分は封印して生きてきたのだ。



「……」


そう。そうしたはずなのだが、いざ目にすると恐怖で身体が固まってしまう。


しかもなんか窓の外を向いていた足の向きがこっちを向いている。


(?! な、なななな……!)


その足が一歩こっちに踏み出そうとした瞬間だった。


ガチャ



「うぉわぁああッ!!!」



ガッ!!


校長室のドアがいきなり開いたのに驚き、またしても足の小指をぶつける。



「いでーッ!!!!」


「……何を一人で騒いどるんや」



入ってきたのは清洲先生と1人の男子生徒……西園寺流風だ。



「いやッ、足ガッ、」


「足ぃ? あー小指打ったんかぁ〜痛いよなぁ〜」



そうだけど、そうじゃない。


龍之介が後ろを振り返ると足は消えていた。

カーテンも揺れてた気配などまるで感じさせない。


横にいた流風と目が合う。ニコリと微笑まれた。


(……か細い……男? 誰だコイツ)


これが龍之介と流風が初めてお互いを認識した瞬間だった。





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