第3話


キーンコーンカーンコーン


5限授業の始まりの鐘が鳴る。


人気の少ない下駄箱近くの廊下前でガクッと龍之介は膝から崩れ落ちた。


(あンの佐藤の野郎……!! 教室で昼間っから学校の怪談披露しやがったせいで……! もろ目が合っちゃったじゃねーか……!)


(急いで教室から出てきちまったけど、クソっ、俺が本当は怖がりだってバレてねぇだろうな……)


鬼塚龍之介。

昔から霊感が強く、幽霊が視えていた為、実はオカルト関連が大大大の苦手な16歳。


実は先程、龍之介が寝ようとしていた頃に、ちょうど佐藤の学校の怪談話が始まり、寝るに寝れず、話が全部耳に入っていたのだ。


しかも何となく視線を感じる気がして、うっかり廃校も見てしまった。


(げっ!!!!!)


廃校の窓から満面の笑みで子どもが手をこちらに振っていた。


距離的に見えるはずがないのに。

廃校だから誰もいないはずなのに。




思い返して背筋がゾッとする。


「鬼塚、」


「ッぃぎ!!!」


誰かに肩ポンされて、思わず叫びそうになるの龍之介。

代わりに変な声が出たがこの際無視だ。

恐る恐る振り返ると、生活指導の清洲先生が少しびっくりした顔で立っていた。



「……き、清洲かよ、驚かせんな」


「先生をつけよな〜。聞きたい事あるんやけど良いか?」






「先週の金曜な、黒銀の奴と揉めへんかった?」


「……先週、黒銀……ああ。ピンク頭の男ならワンパンしたぞ」



 少し考える素振りをして、龍之介が即答する。その回答にあちゃーと清洲先生が頭を抱えた。



「ソイツがどうもボンボンで、親がお偉いさんらしくてな。被害届出すだ出さんと警察に訴えとるんや」



不機嫌そうに黙って聞いている龍之介。



「で、だ。単刀直入にいうと、退学になりそうなんやわ」


「はぁ? 何で俺が! あの変態ヤロー、女子に後ろから抱きつこうとしてたんだぞ?」


「……そら変態やわ」


「だろ? 俺は悪くない。じゃあな」


「待て待て待て待て! お前の言うてる事は恐らく本当やろうが、抱きつこうとしてたっていう証拠がないやろ? 未遂であることを証明出来ひんやろ!?」


「襲われるまで見てろってか?」


「そうは言うてへん。あのな、やり過ぎなんや。相手顔ボコボコやったと。何でそこまでやったん?」


ああいうやつは未遂を防いだ所で、またターゲットやタイミングや場所を変えて繰り返すだけだ。

だから一回痛い目に合わないとやめない。

(合った所でやめるかわからないけど)

ましてタイミング良く警察がいる訳でもない……だから龍之介はあえてボコボコにしてやったのだ。



「……」


でも言ったところで全部理解されるはずがないし、やった事は事実だと龍之介は黙った。



「……あのな、鬼塚。お前が家の為に必死でバイトしとんのも、曲がった奴が許せんだけなのも知っとるけどな、自分の能力やキャパシティっちゅうんか? そーいうのを超えた優しさはな、自分を追い詰めるだけやぞ」



そんなのわかってる。わかってるけど、何か出来るのが自分しかいなかったら、やるしかないだろう。


(本当なら俺だって、誰かに……)


情け無い考えが一瞬あたまをよぎりブンブンと頭を振る。



「……わかってるっての」



ブスッと口が微妙にとんがる姿を見て、清洲先生は絶対納得してへんなコイツ、と思った。


「ま、詳しい話は後で校長先生からあるで、校長室で待っとき」




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