私たちの舞台

紫栞

私たちの舞台

元々私はいじめられっ子だった……。


私は小学校の時転校した。

そこは小さな村で、子供が少なかった。

転校生は珍しく、服装やなまりはその村の子供たちにとっては異質だった。

登校すると大袈裟に笑ったり、国語の時間なんて大変な騒ぎだった。

先生たちも他と違うことについて笑ったりせず受け入れるように指導したが思うような効果は得られなかった。


そんな小学校を卒業し、中学は少し離れたところに受験をした。

あいつらと同じなんて嫌だと強く思い、家に帰るとすぐに勉強をした。

もちろん友達と遊ぶこともなかったのですんなり合格することが出来た。

中学に入ってからはいじめられることもなくなり、むしろ面白いとクラスのムードメーカー的存在になった。

ここからだった。

私は人を笑わせることが好きになった。


高校に入り、仲良くなった友達と文化祭で一緒にお笑いライブをした。

友達は一緒にネタを作りながら大笑いしてくれた。

でも本番は緊張してネタが飛んだり、言い方が棒読みになって全然上手く出来なかった。

それでもみんなが見てくれることが嬉しかった。

2年生になっても3年生になっても変わらず文化祭でお笑いライブをした。

3年生になるとちょっとした有名コンビになっていた。

もう人前で緊張してネタが飛んだり、棒読みになることは無かった。

お笑いをすることが心から楽しいと思えた。

これを機に私たちはお笑いの養成所の門を叩くことにした。


養成所には渾身のネタを披露して無事入ることが出来た。

しかし入ってから養成所の層の厚さに驚いた。

すごく面白いと思って作ったネタも実は内輪ネタで他の人から全くうけなかったり、作っていて面白くないと思ったネタの方がうけていたり、なかなか思うようにネタが作れなかった。

他のコンビが大ウケしていると悔しかった。

他のコンビのテレビのオファー情報なんて聞いた日には何もやる気にならなかった。

養成所では鳴かず飛ばずのまま2年が過ぎた。

養成所を出て芸能プロダクションに所属するか、そのままお笑いの道を去るか決断を迫られていた。

養成所の先生にはもう少し捻ったら面白くなると思うんだけどとアドバイスを貰うがなかなかそういうネタを作れなかった。

高校時代からの仲だったが段々不穏になってきた。

ネタ合わせでも喧嘩が増え、いつしか自分たちが楽しくなくなっていた。


それから何週か経ったある日、高校の友達から大学の学祭のお誘いを受ける。

「お笑いとして出て欲しい」

そう連絡を貰った時は戸惑った。

今や大学なんてどこも有名なお笑い芸人や俳優を呼んで集客している。

なんで私たちなんかと思ったが張り切ってネタを作った。

しかし実際に打ち合わせになって気付いた。

有名俳優や女優を起用しているが、会場から開始までかなり時間があるのでその間にネタをしておいて欲しいというものだった。

正直前座も前座、観客も聞いているのか聞いていないのか分からないような時間帯にネタを披露するのだ。

せっかくのお誘いだったがガッカリしてやる気にならなかった。

もっとたくさんの人を笑わせて人気者になりたかった。


大学の学祭は案の定人の出入りが多く、聞いていない人がほとんどだった。

学生スタッフの中にはクスッと笑ってくれている人もいたが数人程度だった。

結局こんなチャンスも苦い経験となってしまった。

そしてこれを機に2人はお笑いの世界をやめてしまった。

もう面白いネタが作れない、2人でやっていても面白くないと意見が一致した。


私は悩んだ末、人と関わるのが好きなんだと知り、介護福祉士を目指すことにした。

専門学校に通い、勉強する日々。

今でもたまにお笑いを見て、いいなぁと思うことはある。

でも有名になれるのはほんのひと握りだと言うことは身に染みてわかった。

憧れは憧れのまま、綺麗なままで終わりたかった。


私は晴れて介護福祉士になり、今は老人ホームに従事している。

そして週に1回、イキイキお笑いライブを開催して、今はピンでも先輩介護福祉士とコンビでもおばあちゃんおじいちゃんにお笑いを提供している。

やっぱりみんなの笑顔が大好きだ。


相方は今保育士をしている。

相方は相方で面白いと子供たちに人気らしかった。

お互い道は違えど、人を笑わせて笑顔にすることが大好きだった。


あのままコンビを続けていたらと思うことがある。

でもきっとうまくは行かなかっただろうとも思う。

今は相方ともよくご飯に行ったり、宅飲みをしてそのまま泊まる日もあるほど仲が良くなった。

今や高校時代も養成所時代も酸いも甘いもいちばんよく知る大親友だ。

きっとこの先もこれ以上仲のいい友達は現れないだろうと2人で笑った。


Fin

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