第26話 フレイアが仲間になる

「……それでフレイアさん。どうしてここに?」


 俺は訊いた。


「私は勇者ロベルトのパーティーに加入していたのです」


「き、君が……」


「はい……私はロキ様と一緒のパーティーに入りたいと思い、入ったのです。ですが入ってみたら肝心のロキ様がいらっしゃらないではないですか。あのロベルトはロキ様が故郷に帰られていると言っていましたが、問い詰めた結果嘘だとわかりました」


「へ、へぇ……」


「それだけではありません。彼はロキ様がSS級の危険な地下迷宮(ダンジョン)である『ハーデス』に単身で向かわれたと言うのです。しかもそれを今まで黙っていたと。そしてパーティーを離脱した私はここまで駆け付けてきたのです」


「そ、そうだったんだ……」


「それにしてもロキ様。ご無事で何よりです。私、どうなる事かと……」


 フレイアは瞼に涙すら浮かべ始めた。


「……ロキ様。いきなり、何ですか。この女は」


 メルティは不満を漏らしてきた。


「いきなり、ロキ様に馴れ馴れしいです」


 何となくメルティは妬いている感じだった。面白くなさそうだ。


「ところで、そこの真っ赤い、少女は誰なのですか?」


「俺の相棒(パートナー)だ」


「相棒(パートナー)、そ、それは恋人的なものなのですか? やはりロキ様には既にそういった心に決めたお方が……」


 なぜだかフレイアはショックを受けているようだった。


「勘違いしないでくれ……彼女は俺の魔剣レーヴァテインだ。伝説級の武器の中には人の姿に変化(トランス)できるものもある。彼女がその一つだ」


 やはり剣聖と言えども、一人の女性に過ぎない。何でも色恋に結び付ける所があるのであろう。


「そうだったのですか……それは良かったです」


 何がよかったと言うのか……まあいい。


「ロベルトはまだ嘘を吐いているみたいだけど、俺は別に自らの意思でこの地下迷宮(ダンジョン)に来たわけじゃない。あの勇者ロベルトの差し金により、捨てられたんだ」


「なっ!? 勇者という立場にありながら、あの男はそんな外道な真似をしていたのですか……」


 フレイアは絶句した。


「あの男……今度会ったらタダでは済ましません」


「許せ……とまでは言わないが、そのおかげで今の俺があるだから。あいつに感謝している部分も今ではあるよ……まあ、もう二度とこんな経験したいとは思わないけどさ」


「なんと懐が広い。流石はロキ様です」


「それと、一つ聞いていいか? フレイアさん」


「何なりと……それと私の事はフレイアと呼び捨てにしてくださって構いません」


「……フレイア」


「はい」


 呼び捨てにしないのも何かと面倒そうなので、仕方なく俺は呼び捨てた。


「俺と君は会ったばかりだろう? それなのになんで俺の事をそんな『様』付けで呼んでくるんだ」


「私は見抜いていたからです」


「見抜いていた?」


「ええ……勇者ロベルトのパーティーの躍進を理由を。パーティーが躍進を遂げた理由は決してあのロベルトの力ではありません。全てはロキ様の鍛冶師としての手腕があったからこそ。陰ながらパーティーを支え、決してそれを誇ろうともしないロキ様に私は尊敬の念を抱いていたのです。そして、この方と同じパーティーに入りたいと思ったのです」


 ロベルトのように卑下されるのも問題だが、こうしてあまりに持ち上げられると随分と気恥ずかしくなってくるな……。まあいい。


「ところでロキ様達はこれから、どうされるおつもりだったのですか?」


「ああ……そこにいるメルティと今後の事を相談していたんだ。近くの街『ミリアム』の冒険者ギルドに行って、冒険者をやろうって。それで新たにパーティーを結成しようって」


「でしたらロキ様、よろしければ私をそのパーティーに入れては頂けないでしょうか!?」


「え?」


「私は決して勇者ロベルトのパーティーに入りたかったわけではありません。ロキ様のいるパーティーに入りたかったのです」


「……どうする?」


 俺はメルティに聞いた。


「私は反対でーす」


 顔を膨らませて、メルティは反対してきた。


「ど、どうしてなのですか!? なぜ反対なのです!」


「そんなの簡単です……私のご主人様であるロキ様が取られちゃったら寂しいからでーす。むーっ! きしゃーっ!」


 メルティは小動物のようにフレイアを威嚇する。


「……そ、そんな」


「ですが、私にとってロキ様はご主人様です。ご主人様の命令は絶対です。ですからご主人様が良いと言えば、不満は抱けど決して逆らいません」


「……うーん」


 俺は考えた。フレイアの剣聖としての実力は聞き及んでいる。間違いなく戦力になるだろう。パーティーに入ってくれるというなら心強い。彼女がパーティーメンバーになるのはメリットしかないだろう。デメリットは特に思い当たらない。


「フレイア……君の剣聖としての実力の高さは聞き及んでいる。入ってくれるというのなら歓迎するよ」


「ありがとうございます、ロキ様。あなた様の剣となり、必ずやお力になります」


「ぶー、ぶー、ぶー」


「何か不満か? メルティ」


「い、いえ。別に―。ロキ様の決めた事なら逆らわないって決まってますものー」


 メルティは渋々、フレイアのパーティー加入を認めざるを得なかった。


 こうして剣聖フレイアが俺達のパーティーに入ったのである。

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