冒険者編

第25話 フレイアと出会う

「……はぁ、はぁ……はぁ」


「ぜぇ……はぁ……はぁ……はぁ」


 俺達は命カラガラ、崩壊していった地下迷宮(ダンジョン)『ハーデス』から脱出した。何とか間に合った。

 俺達が脱出した瞬間、『ハーデス』は完全に崩壊を終え、もはや何人たりとも、地下迷宮(ダンジョン)の中には入れなくなってしまったのだ。


「……何とか、生きて帰って来れたか」


「……そ、そうみたいですね」


 思えば、長いようで短い地下迷宮(ダンジョン)での生活だった。色々とあった。辛い事も多く、何度となく死にかけたが、そのおかげで得られたものは多かった。頼もしい相棒もできた。

 魔剣レーヴァテイン——メルティがそうだ。それだけではない。貴重なアクセサリである『冥府の護り』も手に入れる事ができた。


「地上まで出れば安全みたいですね」


「あ、ああ……そうだな」


 ぐう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ある程度の落ち着きを取り戻した時の事だった。大きな腹の音がした。当然のように俺のものではない。俺のものではないなら誰のものか? 答えは一つしかない。無論、メルティである。


「うっ……ううっ。申し訳ありません、ロキ様」


 メルティは顔を真っ赤にする。


「謝らなくていい、メルティ。お前はそれだけ大活躍をしたんだからな。激しい運動をしたんだから、腹が減るのは当然だ。待っていろ」


 俺はアイテムポーチから、あの『ミノタウルスのステーキ肉』を取り出す。


「今はこんなものしかないが、二人で祝勝会でもしようじゃないか」


「は、はい! ありがとうございます! ロキ様!」


 こうして俺達は『ミノタウルスのステーキ肉』に食らいつくのであった。


 ◇


「さてと……」


『ミノタウルスのステーキ肉』を食らいつくし、空腹を満たした俺達は立ち上がる。


「ロキ様」


「ん?」


「これから私達はどこへ向かうのですか?」


「どこへ向かうか……か」


 俺は考える。ここまでの俺の目的は生きる事だった。生き残る為、地下迷宮(ダンジョン)を脱出する事だけが俺の至上命題だった。


 そして俺に戻る場所などない。かつて入っていた勇者ロベルトのパーティーにはもはや俺の居場所などないだろう。あんな奴の所で働くなんて、もうまっぴらごめんだった。

 

 戻る居場所がないのなら、新しい居場所を探せばいい。それだけの事だった。


「冒険者でもやろうと思う」


「冒険者ですか?」


「ここから近くにある街に冒険者ギルドがあるんだ。そこで冒険者登録して、冒険者になる。冒険者になればクエストをこなして、お金を稼ぐ事も出来る。そして、冒険をしていく内に色々な素材も手に入るはずだ。多くの武器や装備との出会いもまた生まれるはずだ」


「冒険者ですか。良いと思います! どこかのパーティーに入るのですか?」


「いや……もう嫌なんだ。今あるパーティーに入るのは……。勇者ロベルトとの経験がトラウマになっていて、利用されるだけ利用されて用が済んだら捨てられるんじゃないかと……。だから新しくパーティーを作るんだ。自分がパーティーリーダーになったら誰かに利用されて、惨めな思いをしなくて済むからね」


「はぁ……そうなんですか」


「ともかく、近くにある『ミリアム』の街まで行こうか」


 そこは勇者ロベルト率いるパーティーが滞在していた街でもある。あれからそれなりに時間が経過している事もあって、ロベルト率いるパーティーは既にその街にはいない事だろう。


 ……だから、顔を合わせる機会はないとは思われる。そもそもロベルトは俺が死んでいると思っているだろう。もし俺の顔を見たら、あいつは一体どんな顔をすると言うのか。ある意味実に見物ではあった。


「はい、そうしましょう!」


 俺達が『ミリアム』の街へ向かって歩き出そうとした時の事だった。


「はぁ……はぁ……はぁ」


「ん?」


 一人の少女が俺達の前に姿を現したのだ。彼女は相当な距離を走ってきたからか、肩で息をしていた。金髪をした美しい少女だった。鎧を身に着けている事もあって、物理的な戦闘職に就いている事は察する事が出来た。

 

 彼女の顔には見覚えがあった。なぜなら彼女は界隈では有名人だったからだ。彼女の名はフレイアと言い、剣聖として名高い少女だったのだ。


「君は……剣聖のフレイアさん」


「……良かった。無事だったのですね、ロキ様」


 彼女はいきなり、俺の手を握りしめてきた。彼女の温かみが伝わってくる。いきなり伝わってくる女性の体温の生々しさに、急に気恥ずかしくなり、赤面してきた。


「ど、どうして……君がここに」


「……話せば長くなるのですが」


「……そうか。話せば長くなるなら、とりあえずは手を放して貰っていいかな?」


「も、申し訳ありません、ロキ様」


 こうして、俺達は剣聖フレイアと出会ったのだ。


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