第97話 エロマンガみたいな展開

「早く雑用なんだからちゃんと働きなさい」


「………雑用ってことなら何なりとお申し付けください」


 開き直った俺は、執事のように雇い主の氷見谷に頭を下げる。


「いい心構えね」


「雑用だからな」


「早速、私は手前の方持つからあなたは奥の方持ってくれない?」


「分かりましたー」


 言わた通り、俺は少し奥に入りウレタンマットを持つ。


「せーのであげるから、ちゃんと持ってちょうだいね」


「お前の方が力ないんだからしっかりと持てよ」


「そうね。なら息を合わせないといけないわ」


「俺がお前に合わせろと?」


「大当たり」


 マットからひょこりと顔を出し、不快な笑みを浮かべる氷見谷。

 もうこれから手伝わないようにしようかな。善意…………というか今回は無理やりやらされてるし、やりたくもない仕事をしてさらにはストレスが溜まる。

 今すぐにでも辞退してやろうかな。


「はぁ………なら早く合図しろよ」


「行くわよ、1、2,3」


 と、氷見谷の合図でマットを持ち上げる。

 案外軽々持ち上がったマットを、端にあったマットへと重ねる。


「この飛び箱も邪魔だな」


 マットの隣にある跳び箱を見ると、俺は呟く。

 出入りにも邪魔だし、マットを運ぶ時にぶつかりそうになる。


「これも退かす?」


 跳び箱をトンと叩く氷見谷。


「これは下にタイヤ付いてるし、一人でも運べるんじゃないか?」


「なら私はゼッケンとか探してていいかしら?」


「自分で退かす気はないんだ」


「なんのことかしら?私は効率的に仕事を片付けようとしてるだけだけど?」


「いや、もういいです」


 何が効率重視だ。めんどくさいことを俺に押し付けてるだけじゃねーか。

 あーもう、いちいちツッコむのもめんどくさくなってきた。


 早く終わらせて保健室行こう。クーラーの効いた保健室のベッドで1時間くらい熟睡したい。

 跳び箱を邪魔にならないマットの前側に動かし、なにやら棚の方で背伸びをする氷見谷の方へ向かう。


「どした?背伸びして」


「見れば分かるでしょ?奥にあるから取れないのよ」


「遠回しに俺に取れって言ってるよねそれ」


「逆に私に取れるとでも?」


 ムスッとする表情を浮かべる氷見谷に、


「結局、俺がやる羽目になるのかよ」


 と、ため息を吐きながらも氷見谷の後ろから手を伸ばす。


「んで、どれだ?」


「そこの赤と青のカゴ一つづつ」


「あいよ、頭よけて」


「ええ」


 カゴを掴むと、手前に引っ張り棚から降ろそうとする。

 だが、次の瞬間、


「ちょ、あぶなっ!」


「あなた、倒れ――きゃっ」


 俺は足を滑らせ、氷見谷もろともマットの方へ倒れる。


「ってて…………ケガはないか?って――――」


 床に散らばるゼッケンとバトン。


 そして、俺の目の前には、汗ばむうなじを露出させ、俺の方をまじまじと見る氷見谷の姿。


「なんだこのエロマンガみたいな展開は」

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