第79話 騙された


「……………。」


「……………………。」


 ドアが閉まると、俺と千葉は顔を見合わせる。


「ちょ、これ誤解されてない?」


「うん、確実にされてると思うわ」


「だよな…………」


 俺は深呼吸をし肩を竦めると、


「氷見谷お前は是偉大な誤解をしてるぞ!?」


 ドアの方に向かって急いで走り、氷見谷を追いかける。

 早く誤解を解かなくては、俺に病人を襲う鬼畜変態というレッテルを貼られてしまう。


 それだけは絶対に避けたい。氷見谷の軽蔑の眼差し…………あれ結構くるんだよな、精神的に。


「ちょ、氷見谷どこ行っ―――――」


 ドアを開けた所で、俺の口は止まった。

 目の前には、少し離れた所で壁に寄りかかる氷見谷の姿があった。


「あなた、騒ぎすぎよ」


 はぁとため息を吐き、やれやれと首振る。


「お前、帰ったんじゃないのか?」


 ポカンとした顔をしながら、俺は言うと、


「なんで私が帰らなきゃいけないの?」


「だって怒ったのかと」


「怒る?私がいつ怒ったかしら」


「さっき俺のこと軽蔑の目で見てただろお前」


「見たわよ?それがなにか?」


「だからお前が勘違いして帰ったかと思ったんだよ」


「勘違い?」


 と、氷見谷は腕を組み、片目で俺を見る。


「私があんなので勘違いするとでも?」


「ならなんだ、あの軽蔑の視線と暴言は」


「あれは演技よ」


「演技?」


 氷見谷の言葉に、俺はアホな声が出る。


「そうよ。あなたが心葉の背中を拭いてあげてるのなんか見た瞬間分かってたから」


「なんだよ…………」


「ちゃんと看病してくれてたのね、ありがとう」


 からかわれたと同時にお礼をされた。

 お礼を言われるのは気分がいい。だが………………


「なんで騙すようなことを?」


 これだ。

 最初から分かってなら、普通に中に入ってくればいいものの一芝居して俺達を騙すことないだろう。


 細い目を向ける俺に、氷見谷は、


「少し立川くんをからかいたかったから」


 小悪魔に笑った。

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