第76話 あっち向いてて!

 言われた俺は「お、おう。すまん」と、急いで手を離す。

 繋いでいた手を見返すと、なんかドキッとしてくる。温もりがあって、恥ずかしくなる。

 赤面しそうになる顔を隠すように、


「そうえば熱どうだ?下がったか?」


 と、頬を掻きながら言う。


「ん~?どうだろう…………体はだいぶ楽になったかな」


「ならよかった。いちよう確認するからおでこ出して」


「………………分かった」


 おでこを出す千葉から、ぬるくなった冷えピタを剥がすと、手を当てて確認する。


「多分、下がったと思う」


 目線を逸らすと、千葉はぼそぼそと言う。


「まだちょっと熱いな」


 マシになったものの、まだ熱を帯びている。37度5分くらいだろうか。


「それに………めっちゃ顔赤いなお前」


 さっきより明らかに赤くなっている気もする。


「――――んな!?」


 指摘された千葉は、さらに顔を真っ赤にする。


「お前、まだやっぱ熱高いんじゃないのか?熱測れよ」


 そう言いながら体温計を渡すと、


「た、高くはないと思うわ!………………でも貰っとく」


 そっぽを向きながらも受け取った。

 なんか機嫌悪くないか?千葉。


 体調が悪いからだろうか、まぁそっとしといてあげよう。

 千葉が熱を測るのを待っていると、


「ちょ…………何見てるのよ」


 口をすぼめながら、横目で俺の方を見る千葉。


「え、熱測るの待ってるんだけど」


「なんで待ってる必要があるわけ?」


「体温計片付けるためだろ。あと、ポカリ飲むだろ?」


「…………ポカリは飲むけど……………体温計片付けるのに、見てる必要なくない?」


「そっちの方がすぐに行動できるだろ?」


「私が言いたいのは恥ずかしいから見ないでって事!察せよアホ鈍感!童貞!」


「なんで暴言測れなきゃいけないわけ…………俺看病してあげてるよね?」


 最後に要らない事まで言われてしまった。それが一番傷つく。


「ほら!測るからあっち向いてて!」


 人差し指をあっち向けと指示する千葉。


「分かったよ、終わったら言ってくれ」


 俺はその指示に従って後ろを向いた。

 この様子、元気になったみたいだな千葉。声にいつもの張りがあるし、表情も豊かになっている。


 心配はいらなそうだな。

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