第68話 お礼

「氷見谷、最後俺達の分チェックよろしく」


 クリップで止めた書類を氷見谷に渡すと、


「了解。今見るわ」


 と、受け取り、中を確認し始める。

 約1時間半、よく頑張った俺。自分にご褒美をあげたい。とはいってもあの2人の百合に挟まるのはごめんだがな。

 しばらく氷見谷は書類と睨めっこをしていると、


「……………大丈夫よ。お疲れ様」


 目を通した書類をファイルに入れながら、氷見谷は言った。


「おう。それはよかった」


「それじゃ、手伝ってもらって悪いから、何かお礼でもするわ」


「え、なに?お礼?」


 氷見谷から放たれた言葉に、俺は全身に鳥肌が立つ。

 ものすごく嫌な予感がする。

 これまでの経験上、この流れでいい方向に行ったことは一回ない。


 その証拠に、俺は氷見谷にお詫びすると言われて、千葉も共に襲われかけたからな。

 あんな経験はしたくない………………とは言い切れないが、ちゃんと順番を踏んでからやって欲しいのは本音だ。


「そう、お礼。要らないの?」


 書類を片付ける氷見谷は、俺の方を向くと小首を傾げる。


「いや、要らないってわけじゃないんだけど…………」


「ならなんで嫌そうな顔をしているの?」


 お前が前科持ちだからだよ。


「嫌そうな顔はしてない。これは警戒の顔だ」


「どっちも同じようなものでしょ」


「…………んで、お礼ってなんだ?」


 細い目をしながら言うと、氷見谷は何ならバッグの中を探る。

 俺は息を飲み、中から何が出て来てもいいように覚悟を決める。


「バッグから出す前に何を出すか口で―――――」


「はいこれ」


 言い終わる前に、氷見谷は机にモノを置く。


「これって」


「クッキーよ。昨日限定販売されてたから買っておいたの。どうせ今日の仕事頼むつもりだったし」


「あ………そ…………」


 椅子にもたれかかると、俺は安堵のため息を吐いた。

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