第67話 ご褒美の力

「チッ……………なんでビンタされなきゃいけないんだよ」


「あんたが言わなかったのが悪いんじゃない」


 千葉に強烈なビンタを貰ってから20分後、俺はジンジンと熱と痛みを持つ頬を抑えながら仕事をしていた。


 俺の隣には、相変わらず不機嫌そうな顔をしている千葉。氷見谷の作業を手伝っている。

 あいつ……………どれだけの力でビンタしたんだよ。全く痛みが引かねーじゃねーか。


 そのせいであんまり仕事に集中できないし。といってもこれ、氷見谷の仕事なんだけどな。


「立川君、ここチェックお願いできる。種目の説明の欄なんだけど」


「お、おう」


 正面に座っている氷見谷は、俺に書類を渡してくる。


「ここ、説明文足してくれるかしら。これだとあまり伝わらないかと思って」


「お前の仕事なんだからそれくらい自分で――――」


「私はこっちの仕事で忙しいから」


「んな、人任せな」


「快く引き受けてくれたのはあなたよね?ちゃんと働いてちょだい」


「理不尽だ……………」


 人の善意を踏み捻じるようなこと言うなこいつ。横で千葉も鼻で笑ってるし。

 この2人には人の心は無いのか?まぁないからそんな事言えるのだろうけど。


「千葉、お前は笑ってないで手伝え」


 10枚ほど重ねられた書類の半分ほどを千葉の机に置き、俺は言う。


「え、なんで私までやらなきゃいけないのよ」


 置かれた書類を端に退かすと、千葉は俺をジト目見る。


「お前、そっちのやつもうすぐ終わるだろ」


「終わるけどさ、なんであんたのを手伝わなきゃいけないわけ?」


「別にこれは俺のじゃない。氷見谷の仕事だ」


「だとしても、今はあんたがしてるじゃないの」


「もし、この仕事を手伝って早く終われば、氷見谷とお前がヤる時間が出来るんだけどな」


 他人事のように言うと、千葉は一気に顔を明るくして、


「よし、立川。あんたの仕事よこしなさい」


 小さくガッツポーズをして、一気にやる気を出した。

 先程までとは打って変わって、テキパキと仕事をこなす千葉。

 凄いな、ご褒美の力って。


 好きな人とエッチ出来るって、こんなにもやる気を引き起こすものなのか。

 千葉の勢いに乗って、俺も早く終わらせて帰ろうと仕事を進める。

 説明文を書き足し、赤ペンで名前があるか確認をするの繰り返しを4回。


「終わったぁ~」


 30分程かけ、すべての仕事が終わった。

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