第59話 これが私よ!

『とにかく、なんかしら声掛けろって』


『…………やってみる』 


 千葉は頷くと、氷見谷の頭を撫でながら、


「羽彩、私は羽彩が大好きよ」


 赤ん坊に話しかけるような優しい声で言った。

 すると、グスリとしゃくり上げながら、


「……………本当?」


 つぶらな瞳で千葉を見上げた。


「本当よ、じゃなかったら一緒にいないでしょ?」


「エッチもする?」


「す、するわよ」


「今?」


「今はちょっと無理だけど、近いうちにするわよ」


「そう??…………なら安心だけどさぁ?」


「でもその前に立川も混ぜて話をしましょ?」


 俺の方を見る千葉につられて、氷見谷もこちらを見つめる。

 キョトンとこちらを見つめる氷見谷だったが、


「くぁwせdrftgyふじこlp」


 俺の顔を見るや否や、奇声を発して両手で顔を隠す。


「ちょっとタイム!!」


 氷見谷はバッと千葉から離れると、洗面所へとダッシュで消えていった。

 泣き顔を俺に見られたくなったのか。まぁ可愛かったからな。


 クールでもなく、変態でもない。ただの泣きじゃくっている美少女の顔だ。見られ恥ずかしいくなるのも無理はない。


「大丈夫よね」


 千葉は氷見谷の背中を見ながら呟く。


「あの調子なら多分な」


「……………。」


「……………………。」


 ダメだ、やはり2人だと気まずすぎる。

 問題を乗り越えたら、また次の問題が差し掛かる。

 ここを出るまでの辛抱だなこれは。


「さっきは…………その、ごめん」


 背を向けていた千葉は、乙女座りのままこちらを向く。


「あ、うん」


「ほんと!その…………羽彩に乗せられたというか、雰囲気というか…………本当に申し訳ないわ……………」


「いやいや、元はあいつのせいなんだから謝る必要はない…………雰囲気に流された俺も悪いしな」


 元凶は氷見谷だ。これじゃ仲良くなるどころか気まずくなっただけだ。

 逆効果まではいかないが、仲良くなった副作用が激しい。


「でもよ!変な空気作ったあんたも悪いんだからね!?」


 いきなり千葉はいつものテンションで俺にキレてきた。


「いきなり逆ギレかよ………………」


「そうでもしなきゃこの空気をしのげないもの!おっきい声を出したい気分だし!」


 こっちのほうが千葉らしい。気まずい空気も吹き飛びそうだし。


「まぁお前らしいか、そっちの方が」


 俺は鼻で笑いながら言うと、


「当り前じゃない!これが私よ!」


 自慢げな表情に少し笑顔を混ぜ、胸を張って言った。

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