第58話 脱出?

「ちょっと待ちなさい!!!」


 俺の唇に千葉の吐息が掛かった刹那、部屋のドアが開き、絶叫した氷見谷が乱入してきた。


「ちょっと羽彩!?」


 氷見谷に驚いた千葉は俺から、すぐさま顔を離し、ドアの方に目線を向ける。

 た、助かった………………危ない所だった。

 危うく、人様の恋人に手を出すところだった。


 それにしても、氷見谷の奴、何しにここに来たのか。俺を助けに来てくれたわけじゃなさそうだし。


「ダメよ~!心葉は私のモノなんだからぁぁぁ!!!!」


 と、氷見谷は俺の上に乗っかる千葉に飛び掛かり、ベッドへと押し倒す。


「いきなりどうしたのよ」


「私の心葉が取られちゃう~!!!!そんなのダメだってぇぇぇ~!!!私のなんだからぁ!!!」


 千葉の胸元に、顔をうずくめると、子供のように泣きじゃくる氷見谷。

 どうやら千葉が俺とスるのが相当嫌だったらしい。

 だから、それを止めるべく部屋に突撃してきたと……………一体何がしたいんだこいつは。


 そんな氷見谷を、俺と千葉は困惑の眼差しで見つめる。

 そして、2人して顔を見合わせ小首を傾げる。

 だが、目を合わせると先程の事を思い出し、どちらも羞恥に顔を染めバッとその顔を背ける。


 この空気、色々とカオスだぞ?

 千葉の胸元で氷見谷は泣いてるし、俺と千葉の間にはまだピンクが空気が流れている。

 室内には、甘い香りと氷見谷の泣き声が永遠と響いている。


 どうするこの状況。


 氷見谷は当分泣き止みそうにないし、千葉とは話しにくい。

 完全に混沌としている。今の所、切り抜けられるヴィジョンが浮かばないぞこれ。

 しかし、こうゆう状況は俺から動かなければ何も始まらない。本能がそう悟っている。


『おい、どうすんだよこれ』


 氷見谷には話掛けられないので、千葉のじんわりと赤い耳元で言った。


『どうって、泣き止むまで待つしかないでしょ!?』


 と、千葉は小声で怒鳴る。


『多分、こいつお前がなんか言うまで泣き止まないぞ?』


『なんで分かるのよ』


『だって、なんか相当ショックそうだったし……………その、俺とお前が…………危なかったのを見てさ………………』


『っ…………そ、そうね……………』


 少し体をビクつかせると、少し俯きながら納得する。

 このギャン泣きしている人を動かせるのは千葉しかいない。

 俺がなに言ったって聞きそうにないからな。


『だから、なんか声掛けてみろよ』


『なんてよ』


『誤解だ~、とか、演技だぁ~とかその場しのぎのでいいからさ』


『別に演技じゃ………………』


『なんだって?』


『分かったっていったの!』


 もごもごしていて聞こえなかったので聞き返すとまた怒鳴られてしまった。

 なんでこんなキレてるんだ?キレるなら氷見谷にしてくれよ。

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