第53話 正直に

「なんだよ、お前らしくないな」


 内心、いつもと違う千葉にドキッとしながらも、平然を装う。

 調子が狂う。

 いつもだったら、こんなバカ正直にお礼なんて言ってこないし、逆に暴言を吐いてくるくらいだ。

 本当に今日はどうした、千葉の奴。


「…………いつもは、羽彩がいたりして、自分に正直になれなかったから」


「イジられるのが嫌だってことか?」


「そうじゃなくて、羽彩の前では彼女にすべてを捧げたいの。もちろん、あんたにお礼を言いたいことはあったけど、羽彩がいるからそこは……言えなかったというか」


 氷見谷のことが最優先、千葉にとっては大事な事だろう。それだけじゃなくて、ただ単のツンデレも入っているだろうが。


「今は誰もいないし…………言えるかなって」


「監視カメラで見られてるけどな?」


「…………それはノーカン」


「にはならないだろ」


「………でも目の前にいないから、私はカウントしないことにする」


「左様ですか」


 見られていることには変わりないけど、本人がいいならいっか。


「今、氷見谷の奴、隣の部屋で爆笑してるか号泣してるんだろうな~」


 俺は背伸びをしながら、鼻で笑う。


「なんで分かるのよ」


 ジト目でこちらを見る千葉に、


「そんな予感がする」


 あいつの事だから、そうに違いない。

 ベッドに腹抱えてのたうち回ってるのが脳裏に浮かぶ。それか、カメラの映像を映してる画面の前でティッシュ片手に号泣しているか。


「……………確かに、気がする」


「ぷっ……………っはははは」


「クスクスっ―――――フフフ」


 俺達は、顔を合わせると、吹き出して笑った。


「何笑ってるんだよ……………」


「だって……………あんたが変な顔でこっち見るからっ」


「お互い様だろっ?……………」


「まぁね」


 千葉と、こうやって笑い合うのは初めてかもしれない。

 なんか新鮮だ。

 なんとなく、氷見谷とは違って千葉には近付きがたい雰囲気があったが実際はそんな事なかった。


 それを気付かせてくれたのは、氷見谷だった。

 あいつ、本当に仲良くさせる気があったのか。中々やるな、氷見谷の奴。


「よし!このままパァ~っと話すか」


 缶のメロンソーダを開けると、千葉の方に向け、乾杯を促す。


「そうね!なんか楽しくなって来たし!」


 と、千葉も持っていたコーラをメロンソーダへ当てると、


「「かんぱーい!」」


 今度こそ、雑談が始まった。

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