第54話 恋バナ

「ほんとさぁ~、氷見谷の奇行には私も付いていけないのよ~」


「あんなのついていける人いたら常人じゃないって」


「確かに、それはあるわね」


「でもお前ちょっとついていけてるから普通の人ではないぞ?」


「失礼ね、酷い男だわ」


 10分ほどが経過し、俺達はちゃんと楽しく会話が出来ていた。

 ひとまず安心、これで出られる確率が上がりそうだ。


「そうえばさ、あんたは好きな人とかいないの?」


「………………は?」


「恋バナだよ、こうゆう時は恋バナでもしなきゃ」


 急に、話題は恋バナになった。


 恋バナか…………中学の修学旅行以来してないな。あの時は俺も若かった…………

 誰が一番可愛いかとか、ヤルなら誰かとか、胸が一番デカい人とかを話してて、なぜかその情報が女子漏れて俺のグループはそれ以降白い目で見られたんだっけ。


 この話題が恋バナかどうかは愚問だが、恋バナということにしておこう。


「恋バナって言っても、お前は氷見谷がいるから、一方的に俺が話すだけじゃんか」


 こいつには、氷見谷という溺愛している恋人がいる。そんなやつの、恋バナなんてたかが知れている。


 要するに、ただの惚気だ。

 聞いてて虫唾が走る。


「そうね、だって私たちの惚気なんて聞いても意味ないし、普段から見てるでしょ?」


「大体検討は付くし、イヤなくらい目の前でされてるから聞くまでもない」


「でしょ?だからあんたの話だけでいいじゃない」


「よくないわ」


「私達ばっかり惚気るのは良くないわ。ちゃんと話しなさい」


「理不尽な………………」


「残念ね、それが世界よ」


 ポップコーンを口の中へ放り込むと、頬を動かしながら言う。

 本当にそうだよ、世の中。理不尽すぎる。


「それで?好きな人はいないの?」


 前かがみになりながら、目をキラキラとさせる千葉。

 だが、そんな顔をされても、千葉が想像する答えは返ってこないからな。


「好きな人?いないよそんなもん」


 そうだ、俺は高校に入って一度も恋愛なんてしたことがない。俺なんかが女子にモテることがあり得ないからな。

 好きな人もいない。理由は一途になれないから。すぐに可愛い女子に目移りしてしまう。これがモテない原因なのかもしれないな。


「え!?いないの!?」


 千葉は驚きの表情を浮かべるが、


「いないよ」


 俺は真顔で答えた。

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