第51話 気長に待つか…………

 箱を見てギョッとする俺に、意識を取り戻したか千葉は、


「しないからね!?」


 胸ぐらを掴んで来た。


「当り前だろ!アホか!?」


「アホはどっちよ!するわけないでしょ!アホなの!?」


「アホは氷見谷だわ!俺じゃない!」


「絶対しないからね!?いくらあんたに懇願されたりしても体なんて差し出さないんだからね!」


「人の話聞いてるか!お前とする気なんて更々ないからな!?」


 ゴムの箱を玄関の方へ投げ、頭を抱える。

 氷見谷の奴、何を考えているんだ。全くもって理解できない。


 絶対、仲良くさせるって名目で、俺達をおもちゃにして楽しんでるだろ。

 バカにするのもいい加減にしろ。


 でも、あいつ自分の彼女を人様に差し出すとか本格的に頭がおかしい。

 単純に頭湧いてるだろ。


「……………ごめんなさい、私ったら」


 混乱していた千葉は、スーッと深呼吸をすると、明後日の方向を向きながら言った。


「困惑したのは分かるが、あそこまで慌てることはないだろ」


「でも、袋を見たらいきなりゴムの箱が入ってたら誰でも困惑するでしょ」


「いや、あそこまではないだろ」


「あるでしょ!?ガムだと思ってたのよ!?てっきり私はさぁ!?」


「なら気付いた時点で袋の中にとどめてよけばよかったんじゃないのか?」


「ビックリしすぎて出しちゃったのよ!」


 床に転がるゴムを指さし、俺の肩を叩く。


「それ俺にキレることじゃなくね!?完璧自分のせいじゃんか!」


「違うわ!氷見谷のせいよ」


「それは大正解だ」


「よりによってなんでホテルなのかしら」


「くわえてゴムを持たせるしよ」


「羽彩が何を考えてるかわからないわ」


「お前に分からないなら俺には到底分かるわけもない」


 一番氷見谷に近い存在の千葉はわからないんだ。絶対に俺は理解できるわけががない。

 にしてもなんでホテルなんだ。

 もっといい場所あっただろ。そうだな…………ファミレスとか………カラオケとか。

 あいつは一般人の思考回路がないからな。そんな発想できなかったのだろう。


「でも、本当に何をすれば出してくれるのかしら」


 ポテチの袋を開けながら千葉は言った。


「さぁ?とりあえずそれを食べながら待ってればいいんじゃないか?」


「なんでよ、なんかしら方法を考えなさいよ」


「だって、分からないんだったら待つしかないだろ」


「…………まぁ、確かにそうね」


「ならお菓子でも食べて雑談しながら気長に待とうぜ、大量にあるんだしさ」


「…………だね。雑談しましょうか」


 千葉はフッと微笑むと、プシュっという音を立てながらコーラの蓋を開けた。

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