中身

お題：男のマンション 制限時間：15分

中身

　大抵というかほとんどの場合、隣に住んでる人の名前はおろか顔すらも覚えてないのが現在の日本の現状だ。

　唯一わかるとしたら、マンションの管理人ぐらいだろうか。

　それぐらい都心は人の入れ替わりがはげしい。

「……？」

　そして今日も新しい住人が隣に引っ越してきた。

　事故物件波にこのマンションは頻繁に変わるから、たまに不審者が迷い込んだか押し売り業者が潜入したのかとチャイムをならされると思う。

　で

『これからもよろしくお願いします』と渡されたものをじろじろと見てみるも使いみちがない。どう考えても女性用。しかし、確かに相手は男性だったはずだし……声も低かった。

　家族で引っ越した感じもしない。

　となると……オネェ系なのかと思考をたぎらせてみるも、大学にそんな怪しい人物は見たこと聞いたこともないので判別不能。

　もらったものを粗末に扱うのも困ったその『女性用』はどう対処すべきか。母親に送るか。はたまた男なので使いませんと返すべきか……頭が混んがってく。

　大体……この手のものは洗剤とか、食べ物とかそういうものに決まってるのになぜこれをチョイスしたのだろうか。

　相手もまさか隣が男じゃないと思って渡したわけではないだろうし……洗面所で顔を確認してもどう考えてもただの青臭いガキの顔。

　確かに部屋中にぬいぐるみが散らばってて趣味はそっちに近いかもしれないが、感情も相手も女性が好きなのは事実だ。

　可愛いものに罪はない……が商品には罪がある。

　女性に電動シェーバーを渡されても困るように、男性にそういうものを渡されても何も出来ない。とそこまで考えを巡らせると、結局母親に渡しても怪しく思われるのがオチだ。

　犯罪に加担してるとか、そういう関係の女性がいるとかそういう風に受け取られるなら、もうできることが限られてくる。

「……」

　お気に入りの大きなクマのぬいぐるみはものをモテるのでちょっともらった箱をデコレーションしてクリスマス感を出してみる。

　こうすれば、誰にも怪しまれず粗末に扱うってことにもならないだろう。もちろん、中身に意味がなくなるのはこの際仕方ない。

　問題解決したし、ネットゲームをやろうとして、ふと挨拶しにきた言葉を思い出す。

『これからもよろしくお願いします』

　彼は『これからも』といってた。

「……これからも？」

　どこかであったことがあったのか、記憶を遡ってく間に俺は突然の睡魔に襲われた。