第109話 首狩り姫K27。
「どうだった?」
「とりあえずソロで四回勝ドン食ってきた。勝ドンって超美味ぇな」
「…………え、時間的に最大でも八試合くらいだろ? 半分も勝ドンしたの? 化け物か?」
とりあえず物は試しと、マコトには私の可愛いヒイナちゃんの相手をしつつ、ヒイロとライカのお世話を命じてから件のゲームをやって来た私。
ゲームタイトルはアナザー・プレイヤー・バトル・グラウンド。略してAPBG。ゲーム内容は丸腰で航空機から無人島にパラシュートダイブして、無人島の中に
何故か最後の一人になって優勝すると、特別エリアに行って『勝ドン』って名前の料理を食べれるオマケがある。……まぁ平たく言うとカツ丼だった。超美味かったのでちょっと張り切って食べて来た。
エルオンと比べたらゴミみたいな精度のフルダイブだけど、それでも数年のブラッシュアップが成されたシステムだ。美味しい食べ物をバーチャルの中で食べるくらいは出来るらしい。
「ナイフ強いわ」
「そっか……、え待ってナイフ? ナイフっ!?」
「どした?」
「いやナイフ!? お前ナイファーやって勝ドン食ったの!?」
「そだよ? 確定で殺せて強いじゃんね」
「いやいやいや…………。さすが戦闘民族」
「殺す」
私は携帯端末からエルオンの掲示板にアクセスして、さっきと同じ場所に奴の秘蔵本『ルスリヤ学園のエルフ姫♡やめられない秘め事』の詳細(隠し場所含む)を投稿した。死ぬが良い。
「なんでぇぇぇぇええっ!?」
「頭が高いぞ愚民。ひれ伏し給えよ。次は秘蔵のゲームを暴露してやろうか? 長耳陵辱〜隠れ里に--」
「--あ、マジ自分ひれ伏して床でも何でも舐めるんで勘弁して下さい。マジ自分とかクソなんで。ゴミなんで。どうかご容赦をっ」
投稿画面を見せてトドメを刺した。人に物を頼むなら(以下略)。
ちなみに奴に遮られた秘蔵ゲームのタイトルは、『長耳陵辱〜隠れ里に響く嬌声と惨劇〜』だ。このアホ、エルフ好きって言うくせに持ってる本とかゲームの半分はエルフが酷い目に遭う作品なの何でなの? 一周まわって嫌いなの?
「くっそ、コイツにやり返したくても
「ふっ、あったとしても私に恥じるところなど無い! 有志が描いてるらしい私とヒイロとライカのえっち本とか楽しみ過ぎるくらいだからな! なんなら父さんと母さんにも布教する所存!」
「無敵かよコイツ……! それはそれとして、オジサンとオバサンにそれを見せるのは止めてあげてくれ。娘が自分出演のエロ本を嬉々として見せて来るとか悪夢だろ」
「は? 娘の晴れ姿やぞ?」
「それは晴れ姿じゃなくて
「…………ちょっと違くね?」
「いや大体あってるよ」
まぁ良いや。ゲームの流れとか仕様は何となく分かった。あとはちょこちょこ続けてたら仕上がるだろう。
新作はみんな当日に初めてプレイするから、新作の細々とした仕様の変更とかは当日確かめるしかない。それは他の参加者も同じはずなので、私だけが不利になる訳じゃない。
「てゆっか、残りの一人には顔見せとかしなくていいの? チーム戦でしょ? 打ち合わせとか…………」
「あー、うん。なんて言うか、その……」
「…………おい、また厄ネタか?」
「いや、その…………。そいつ、なんと言うか、ちょっと嫌な奴でさ、数合わせの臨時メンバーと擦り合わせするくらいなら、その時間もゲームやって個人技磨いた方がマシって言ってて」
「え、なに、私って歓迎されてないの? 今からでも喜んで参加降りるぞ? ん?」
なんでも、少しの比喩も無くマジでそんな態度らしい。
おうおうおう、こちとら参加したくもないイベントにご招待されるってのに、マジかコノヤロウ。私は別にゲームに
「いや手抜きはマジで勘弁して下さい。優勝、最悪入賞で手に入るグッズとコードが欲しいんです」
「…………アイテムコード? このゲームの?」
「そう、アナグラで使えるキャラクタースキンなんだけど、エキシビション用の奴だからオンリーワンなんだよ」
アナグラ…………、ああアナザー・プレイヤー・バトル・グラウンドでアナグラか。初心者に当たり前の顔して新語ブチ込んでくるなバカヤロウ。
「……ゲーマーってそう言うの好きだよね。他の誰も持ってないトロフィーを自分だけが持ってる的なシュチュエーション」
「まぁ入賞した奴は全員手に入るからオンリーワンは間違いなんだが、それでもスーパーレアなのは間違いない。めっちゃ欲しい」
まぁ、いいか。こいつにはサマーイベントで世話になったし、その恩返しと思えば。
そう言えば、マコトが、ポイポイがガスキーと呼ぶおっぺぇさんと、チョコさんもイベントの手伝いで世話になったな。何かお返しした方が良いのだろうか。
「はぁ、分かったよ。焼肉とケモハーレム、忘れるなよ?」
「任せとけ。焼肉は参加報酬、ケモハーレムは成功報酬だ」
「つまり勝てば良いんだろ?」
ほんとなんで私を呼ぶのかな。戦いとか得意じゃないのに。
まぁ良いよ、いつも通りだ。
人を見て、場を知り、己を識る。護身の基本、その心構え。
このゲームは殺し合いに主眼が置かれるが、最終目標は生き残ること。つまり戦いを避けに避けて最後だけかっ攫う戦法も当然有り。
ならば、危険を退ける護身の心構えは役に立つ。もしかしたらエルオンのイベントやクエストよりも
「とりあえず、今は補充」
ヒイロとライカの成分補給を一秒たりとも止めたくない私は、既に限界まで連続でアナグラを遊んだことで禁断症状が出ていた。いやマジで、比喩じゃなくて、気が付くとヨダレ垂らして脳内のヒイロの毛並みをベロンベロンと舐め回しては、現実の私の手が震えてるんだから、ヤバいでしょコレ。
私はヒイロを抱きしめてお腹で深呼吸、その後ヒイロにキスをして耳をはむはむと食べた。美味しい。
ふふ、笑いたくば笑うがいいさ。これがケモニウム依存性に罹った者の末路だよ。
◆◇◆
「…………な、なんだってんだよっ」
男は怯えていた。
百人を集めた殺し合い。そのエンターテインメントにおけるキャストの一人として、建物の片隅でただ震えて待っていた。
恐怖が、過ぎ去るまで。
信じれる仲間は既に亡く、銃弾が吹き荒ぶ場所で鈍色のナイフを手に舞い踊る悪魔が、自身に気付かず居なくなる事を、男はただ祈った。
--ギィィ…………。
「ッッ!?」
発砲。
男は自身が隠れていた部屋の扉が、突然、だがゆっくりと開く様を見て半狂乱になって銃を乱射した。
扉を開けたならソコに居るはず! この瞬間しかない!
殺し切れたか分からない。ならば手負いになったはずである、今この瞬間、畳み掛けるしかない。
男は恐怖を捩じ伏せ、千載一遇のチャンスを掴まんと扉を蹴破り、部屋の外に出た。
「どこに居やがる! 出てこ--」
「--はぁい☆」
ザクリッ。
何が起こったのかも分からない男は、鈍色のナイフを突き立てられた首に手を回しながら、HPが砕け散って力が入らない体を傾け、せめて悪魔を人目見ようと顔を動かした。
「……グッドゲーム、って言うんでしたっけ? 手強かったですよ」
意識が途絶える間際、男に向かってそう口にするのは、自分にナイフを突き立てた
「周りはよく見なくちゃね。右見て左見て、
建物に設置されたオブジェクトを利用して天井付近から扉を開け、そしてそのまま出て来た男に飛び掛った少女はそう言って、次の獲物を探して歩き出した。
その少女の頭上に記された文字、名を記すソレに書かれたるは『K27』の三文字。
ここ数日でアナグラへ姿を現し、そしてとある日を境にぱったりと姿を消す伝説のナイファー、
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