第35話 イベント開始。
そろそろ私もエーテルライトの事をエルオンと呼んでみようか。
私がエルオンでなろう系主人公呼ばわりされた日から六日目の深夜零時十分前。
あとたった十分で今日が終わり、私の通う学校は夏休みに入る。
この日私は学校が終わると速攻で食事をして、お風呂に入り、歯を磨いてトイレを済ませてベッドに入って、ついさっきまで寝ていた。
『生体認証完了』
私はこんな時間に起き出して、パジャマを着替えることも無くベッドにVRデバイスを用意してもう一度寝転がった。
今度は枕に頭を乗せる代わりに、精密機器に頭を突っ込んで。
あと八分。
この一週間、私はエルオンの世界で今の私に解放できる街の噴水を全て解放してあった。
あと七分。
そうしてまたこの世界にやって来た私が降り立ったのは、ロアの街。
あと六分。
私のログインに合わせてサーバーから呼び出されたヒイロをすぐに抱っこすると、挨拶するように私のおでこを前脚でポンっと押さえる。肉球の無いうさぎ独特のふわふわお手々だ。
あと五分。
ポイポイとチョコさんと変態紳士おっぺぇが好きの三人でイベントの準備をしてきたけど、イベント本番は私を含めて四人全員がソロでこのイベントを走り抜ける。
あと四分。
いや、嘘をついた。私はソロじゃなかった。だって私には……。
あと三分。
この世界に来た瞬間からずっと一緒に居るヒイロが今も、私の腕の中に居るのだから。
あと二分。
私はもう移動を始めている。四人で練った計画に合わせて、それぞれが好き勝手にイベントを駆けて行く。
あと一分。
いつもの西では無く、今日は北門から街を出る。目に付く場所に居るヒールラビットが草むらから顔を出して私を見た。
『只今より、【サマーバケーションイベント・ビーストキングダム】を開始します』
「出陣じゃぁぁぁぁああああああ!」
両手に装備したのはチョコさんと一緒に集めた美味しい人参!
さぁこのイベントで、私が一番最初に狙うのは、ヒールラビットちゃん、君たちだよ。
「さぁ私に【ビーストハート】を寄越しn--………」
そしてこのイベントで、私を一番最初に狙っていたのも、ヒールラビットちゃん、君たちだったのかい?
「うぉぉおああああぁぁぁぁぁあっ!? なにごとぉー!?」
片っ端から人参食べさせて、片っ端からビーストキングダムに移住願おうと思っていた私は、待ってましたとばかりにヒールラビットから寄って集って襲われる。
この子達ノンアクティブだったのでは!?
イベント中はアクティブモンスターに変わるとか!?
そんな勘違いをする私に、ヒールラビットは我先にと集まって来て、可愛いお手々を光らせながらもふもふと叩いて来る。
☆【ビーストハート】を40個手に入れました。
なにごと!? マジでなにごと!?
手に入れようと思ってたら既に手に入れていた。催眠術とか超スピードなんてチャチなもんじゃない。私は何か恐ろしい物の片鱗を味わった気分だ。
「え、なに、くれるのっ? なんでっ!?」
大量のヒールラビットと言う相当な物量に押し潰された私は、代わる代わる私の埋める山のパーツに成り代わるヒールラビット達にアイテムを渡される。
攻撃スキルを使ったみたいに光るお手々を私の体にポンっと当てると。
☆【ビーストハート】を86個手に入れました。
というアナウンスがすぐに流れる。
アナウンスそのものは結構なレスポンスだと思うんだけど、それを超える速度と数で私にアイテムを渡して行くものだから、アナウンスが貰った個数をまとめて報告する始末だ。
増える増える。
え、君たちこんなに沢山いたのってくらいにヒールラビットがやって来る。
マジで何が起きてるの?
移住について説得するどころか、前向き過ぎてちょっと一回落ち落ち着こうぜ☆ って説得したくなる光景だ。
いやホントにマジで何が起きてるの? 何かバグった?
いつもなら私を埋める『山』で済む程度のヒールラビットは今や、私を溺れさせる『海』と表現するべき数になっていて、私を目指して数え切れない程のもふもふが、よちよちマフマフと歩いて来る。
「どうしようヒイロ、私これモテ期かも知れない!」
人生には三回だけのモテ期があるらしいから。あと二回か。全部もふもふだと良いな。
もはや連続で流れるアナウンスに意識を向けることすら億劫だ。
溢れる。溢れる。
緊急メンテナンスがあったあの日から、何故だか私はヒールラビットからめちゃくちゃ懐かれるようになった。
だからもしかしたら、今回のイベントでもヒールラビットは簡単に説得出来るかもしれないと思ってここに来たのだけど。
「まさか説得する前からスタンバってるとは思わないじゃんかぁー!」
溢れる。溢れる。
わざわざ私が北門から出てきたのって、北から西に行って南って順に草原を回ろうとしてたのに、これもしかして最初の草原全領域からヒールラビット集まって来てない?
もはや、目に見える場所全てがヒールラビットで埋め尽くされている。
本気で今の私は、『兎で構成された海』に漂っているクラゲみたいなもんだ。全身がもふもふしてて幸せである。
イベントが開始してからまだ十分。すでに集まった【ビーストハート】が万を超えた。
「え大丈夫これ? 私またチート扱いとか受けないこれ?」
いくら私だってこんなの異常事態だって分かるぞ!
………………そして、三十分後。
「………………ひ、ヒールラビットが、最初の草原から消えた」
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